1902年01月21日 (火) | Edit |


英国の薔薇戦争の昔、王位を奪うためいたいけな王子を殺害した極悪非道の王、リチャード三世。(中略)彼は本当に伝説とおりの悪の権化だったのか?(中略)純粋に文献のみから歴史の真相を推理する。安楽椅子探偵ならぬベッド探偵登場!探偵小説史に燦然と輝く歴史ミステリの不朽の名作 「時の娘」裏表紙の紹介文より)



読めばリチャード三世のファンになる(笑)。
そんなミステリです。「時の娘」は。
御多分にもれず、わたしも見事洗脳され、もとい、感銘を受け、リチャード三世贔屓になりました。

肝心のリチャード登極の正当性がいまひとつ理解できなかったにも関わらず…。

ええ、理解しにくかったんですよ。
「国王エドワードがエリザベス・ウッドヴィルとの結婚前に、エレノア・バトラーと秘密裏に結婚していた」事が、なぜ「エドワード王の二人の王子が私生児と認定され、王位継承権を否定される」事に結びつくのか。

自分なりに考えて「キリスト教は一夫一婦制である」、「嫡出子は正式な婚姻から誕生したものしか認められない」、だから、「エリノア・バトラーと結婚した以上、その後のエリザベス・ウッドヴィルとの婚姻は無効である。当然エリザベス・ウッドヴィルとの間に儲けた子供たちは私生児となり、王位を継承する資格はない。したがって、王弟グロースター公リチャードの登極はなんら横紙破りではない」といの流れでいいのかな?と推定しています。

グラント警部とキャラダイン青年はすんなり理解していたようですが、文化や宗教が異なる人間には理解しづらいのでは?
例えば、一夫多妻が認められているムスリムの王様が読んだら、わけがわからないんじゃないでしょうか。
あるいは、正妻に男子がいないとの条件のうえであっても、庶子の登極が比較的容易な歴史文化を知る人にとって。

ちゃんとかゆい所に手が届くように、キリスト教における婚姻なり、キリスト教での嫡出子、非嫡出子の序列の厳しさを説明してくれていれば、と、思います。

今でも、自分の補足と推定が正しいのか自信がありません。
作中では、「エリノア・バトラーはずっと前に修道院で死んでいる」と明記されています。
だったら、エリノア夫人の死でもって、エリザベス・ウッドヴィルとの婚姻が有効になるんじゃないの?とか、王位継承に関わる大事をエドワード王が放置していたなんてあり得るの?エリザベス・ウッドヴィルとの婚姻が有効だからこそ手を打たなかったんじゃないの?とか疑問がいくつもありますから。

しかもグラント警部はリチャード贔屓のあまり、致命的な失言をしています。

リチャード三世には愛人との間に息子がいました。愛人が産んだ子ですから、キリスト教的には私生児です。ですがジョンと名付けられ、一族内でも認知され、健やかに成長していました。
言いがかりとしか言えない口実で、リチャード三世を追い落とすべく侵攻をかけてきたヘンリーとジョンを比べたグラント警部は次のように発言しています。

「その子(ジョン)のほうがヘンリーよりずっと王位にふさわしかったな」
「その子は私生児とはいえ、王(リチャード三世)の直系の息子だぜ。ヘンリーのほうは王の弟息子の私生児のそのまた曾孫だ」



ええっ?
王の直系であれば私生児でも無問題なら、エドワード王の息子さん二人だって問題無しではありませんか?

こんな風にリチャード登極の正当性について、わかりやすく揺るぎなく証明している!とは言い難いのですが、読者をリチャード贔屓に引き込む吸引力を持った作品です。
おそらくは、作者ジョセフィン・ティがリチャードにむけた無念の思いと愛情が、読む者を引き込むのでしょう。

わたしは法的な面ではなく、リチャードの人柄、長兄に捧げた思慕と敬意、忘れ形見の子供たちに寄せたであろう親愛の情から判断して、きっぱりと「殺人」を否定した次の一文がとても好きです。

この家族的な雰囲気こそ、この事件におけるリチャードの潔白をどんなに強く証明しているか、ということを。リチャードが二頭の子馬かなんかのように片づけたと思われている二人の少年たちは、エドワードの息子なのだ。リチャードが個人的にも良く知りぬいていた子供たちなのだ。 (「時の娘」より引用)



しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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以下、いただいたコメントです。

(1)リチャード登極の正当性について(by秋津葉さま)
こんにちは!
『時の娘』話題にしゃしゃり出てまいりました。
キリスト教圏の嫡子と庶子の扱い、サラさんのように歴史好きの方にも専門分野が違うとわかりにくいのですね。そうなのかー。

>「キリスト教は一夫一婦制である」、「嫡出子は正式な婚姻から誕生したものしか認められない」、だから、「エリノア・バトラーと結婚した以上、その後のエリザベス・ウッドヴィルとの婚姻は無効である。当然エリザベス・ウッドヴィルとの間に儲けた子供たちは私生児となり、王位を継承する資格はない。したがって、王弟グロースター公リチャードの登極はなんら横紙破りではない」といの流れでいいのかな?

そのとおりです。この場合、より正確には、「先にエリノア・バトラーと婚約していた」「当時の婚約は結婚と同等の重みがあった」ということなので、余計にややこしいんです。
中世初期にはまだ庶子による継承が認められていたようですが、(たぶん)キリスト教の勢力が強まるにつれて認められなくなりました。

>エリノア夫人の死でもって、エリザベス・ウッドヴィルとの婚姻が有効になるんじゃないの?
「現代ならば」その可能性が高いと思います。当時は、先妻(という言葉が適当かどうか)が亡くなっても無効な婚姻は無効なままでした。無効な婚姻を有効にするには、改めてエリザベス・ウッドヴィルとちゃんと結婚しないと。

(2)Re: リチャード登極の正当性について(byサラ)
こんばんは。
のどにひっかかった小骨のような疑問に書き込みをありがとうございます!

はい、わかりにくかったんです。
キリスト教が庶子の存在を異端視するのは知っていましたが、まがりなりにも20年近く「結婚」していた既成事実もあるうえ、エリノア夫人が既にお亡くなりなら、そんなに簡単に「無効だから私生児だよ」と、否定できてしまうものかと半信半疑でした。

> そのとおりです。この場合、より正確には、「先にエリノア・バトラーと婚約していた」「当時の婚約は結婚と同等の重みがあった」ということなので、余計にややこしいんです。
> 中世初期にはまだ庶子による継承が認められていたようですが、(たぶん)キリスト教の勢力が強まるにつれて認められなくなりました。

「時の娘」では「秘密結婚」とありましたが、秘密裡に婚約していたのですね。
ところで「余計にややこしい」とはどの点が?
「婚約は結婚と同等の重みがあるが、それでも結婚の前段階の『婚約』なので、結婚には至っていない!だからエリザベス・ウッドヴィルとの婚姻は有効だ!!」との反論の余地があるとう意味でしょうか?
質問ばっかりですみません。


> >エリノア夫人の死でもって、エリザベス・ウッドヴィルとの婚姻が有効になるんじゃないの?
> 「現代ならば」その可能性が高いと思います。当時は、先妻(という言葉が適当かどうか)が亡くなっても無効な婚姻は無効なままでした。無効な婚姻を有効にするには、改めてエリザベス・ウッドヴィルとちゃんと結婚しないと。

当然ですが、現代とは法の適用が異なるのですね。

それにしても、エリザベス・ウッドヴィルの肩を持つ気はありませんが、20年近く「王妃」として遇され、ちゃんと男児二人を産んで義務も果たしたのに、いまさら、あんた騙されていたんだよ、重婚だから妻ですらないよ、子供たちも私生児だからね、では、泣き面に蜂ですね。

子供たちのこともさりながら、本人も「王妃となるには身分が低すぎますが、愛人となるには誇りが高すぎます」で、一本釣りにみごと成功したと思っていたら、愚かな重婚の妻…。
エドワードさんは子供たちの王位継承権をどうしようとしていたのやら。

ジョセフィン・ティはエリザベス・ウッドヴィルに好意的で、リチャードとも友好関係を結んでいたように述べていましたが、これでは反リチャードとして、ヘンリーの侵攻を援助するのが自然な心理ではないかと思えました。泣き面で過ごす女性とも思えないし。

(3)続きです(by秋津葉さま)
こんばんは!続きでコメントしようと思いつつ、ずいぶん遅くなってしまいました。

「余計にややこしい」というのは、「秘密結婚ではなくて秘密裏に婚約していた」→「婚約なら問題ないんじゃないの?」→「いや、当時の婚約は婚約は結婚と同等の重みがあって」という部分が加わってややこしいという意味でした。言葉足らずで失礼いたしました。

>王位継承に関わる大事をエドワード王が放置していたなんてあり得るの?
これに関しては「エドワード兄ちゃんだから……」としか言えません、私。普通ならあり得ないことですが、彼の場合はあっても不思議ではない気がしてしまうんですよねー。
エリザベス・ウッドヴィルとの結婚の際も、こっそり秘密結婚して(国王なのにあり得ない!)その間、何も知らない家臣が一生懸命外国との結婚交渉をしていた、という……
何か問題が起きたら自分の魅力で(男性も女性も)うまいことたらしこんで、自分の意思を通すつもりだったのでは?とか思っちゃいます>私ってひどいかも(^_^;)
それではまた。

(4)Re: 続きです(byサラ)
こんばんは。質問へのお返事をありがとうございます!

>「余計にややこしい」というのは、「秘密結婚ではなくて秘密裏に婚約していた」→「婚約なら問題ないんじゃないの?」→「いや、当時の婚約は婚約は結婚と同等の重みがあって」という部分が加わってややこしいという意味でした。

なるほど、「婚約に結婚と同等の重みがあるから」ややこしいのですね。

>>王位継承に関わる大事をエドワード王が放置していたなんてあり得るの?
これに関しては「エドワード兄ちゃんだから……」としか言えません、私。

国民や臣下を魅了したエドワード王もずいぶんな言われよう(笑)。

直面するのがイヤだから、「なんとかなるさ」で先送りにしていたのかもしれませんね。
寿命の短い時代とはいえ、40歳そこそこで死ぬとは予想もしていなかったでしょうから、エリノア夫人は亡くなった、後は「婚約」を知るスティリントンが神に召されれば証人はなし、いずれなかったことになっちまうさーと。

おかげで、妻子も弟もとんだ迷惑を被ってます。
ジョセフィン・ティはエリザベス・ウッドヴィルだけでなく、エドワード四世に対しても好意的ですが、こういういい加減さを見ると、本当に有能な王様だったの!?と疑念が湧いてきます。
「英雄色を好む」はいいけれど、後始末ができず周囲に迷惑をかけるのは困りものです。
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