2014年10月31日 (金) | Edit |
手元に届いたのはいいけれど、なかなか読む気にならなかった、「白薔薇の女王」。

なぜなら、わたしは「時の娘」系リチャード三世贔屓の人間だから。

この小説の主人公は誰あろう、リチャード三世を追い落とし、王位を簒奪したヘンリー・チューダーと結託したウッドヴィル一族をつけあがらせた大元、エドワード四世王妃エリザベス・ウッドヴィルなのです。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「白薔薇の女王(上)」
「白薔薇の女王(下)」
著者:フィリッパ・グレゴリー
訳:江崎リエ
出版社:メディアファクトリー
★★★★★★★★★★★★★★★★★★


とはいえ、リチャード三世が甥殺しの犯人扱いされていないらしいとの噂を聞き、とうとう読みました。

てっとり早く結論を書くと、リチャード三世の人物、設定については偽りなく良かったです。

リチャード・ポイントは◎!

リチャードさんは、正当な後継者である甥っ子を、重婚の言いがかりをつけて議会に諮って私生児に落とし、王位を簒奪してます。
アン・ネヴィルとは打算結婚だと言及されていて、パワーゲームの駒となる以外能のない哀れな妻を計算高く利用しています。

けれど、「甥殺し」設定ではないので十分に許容できます。

ちゃんと、次の二点にも触れていました。
(1) 甥っ子たちが私生児となった以上、リチャードが彼らを殺す動機はない事。
(2) リチャードが兄エドワードと兄の息子である甥たちを愛していた事(だから、殺害に至るはずはない)。

「悪」であっても、わたしには、充分に、不憫かわいいリチャード三世でございました。

そして、エリザベス・ウッドヴィルのキャラが予想外に印象悪かった・・・。

以下、感想です。
エリザベス・ウッドヴィルに辛い感想です。

◆ヒロイン補正がかかって、「いいこ」になるかと予想していたんですが、まるでママ友をパシリにして悦に入っているボスママといった風情で、一国の王妃の貫録や気品が全然感じられません。
ヒロイン、なんですよね?
作者から見れば「いい女」なんでしょうか。あるいは、ヒロインだからって、いい人補正はないぜ!との流儀か?

◆わたしがいまいち腑に落ちなかったリチャード三世が甥殺しでない場合の、エリザベス・ウッドヴィルの反応と行動が、まずまず納得いく流れで展開されています。

知識不足ゆえ、どこまでが創作でどこまでが学説に基づくものかは判断できませんが、バッキンガム公暗殺犯説にマーガレット・ボーフォートの存在を絡めて、錯綜とした流れながら筋が通っていました。

あれだけ身内を贔屓しまくった女性です。
お腹を痛めた我が子ならなおのこと可愛いはず。
息子の王位を取り戻すため、反リチャード活動に手を貸す流れはしっくりきました。

◆先にも書いた通り、エリザベス・ウッドヴィルは女王でもなく、王妃でもなくボスママとの呼び様がしっくりくる女でした。

情熱の妻であり、慈愛の母なんだけど、関心が半径1メートル。

エリザベス・ウッドヴィルは、我が家族、我が夫、我が子、我が一族たちのことしか考えていない。
半径1メートルの我が世界のみに閉じこもり、他を理解しよう、受け入れよう、交わろうという開かれた心を持っていない。
自分が愛する家族以外はどうでもいい、知ったこっちゃない。
否、どうでもよくはなくて、自分の愛する家族以外は積極的に排除にかかろうとする。

身内だけで固めて国家を運営するつもりだったのか。
ちなみに、出産以外、王妃としての功績に関する言及はありません。
・・・こうまで徹底しているからには、「身内だけを愛し守ろうとする妻、母」の姿を描くことにポイントを置いたのだな、と推測します。

解説によれば、夫を心から愛する妻としてのエリザベス・ウッドヴィルが描かれているとのことなのですが、夫に向けて心を開き、受けいれているのではなくて、半径1メートルの己の世界、己の掌中、己の一族のなかに取り込もうとする、非常にエゴイスティックな閉鎖された情念のようにみえました。

それを「愛」と呼ぶのだからたちが悪い。

ことあるごとに、水の女神メリュジーヌの末裔であることを誇りにし、魔術も使える、すなわち「魔女」との設定である、ジャケッタ&エリザベス・ウッドヴィル母子は、水は水でも、人を活かす清冽な流水ではなく、澱んで腐敗した汚水です。

水は、ひとところにとどまらず、外の世界へと流れ流れてあればこそ、命を育むことができます。

けれど、他に流れ出ぬ水は澱み、腐敗し、毒を持ち、生きとし生ける物を害します。

澱んだ汚水に侵された白薔薇が枯れ果てたのは当然のことでありましょう・・・。

◆腐敗した汚水のたとえが酷ならば、魔太郎とでも。

コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ

エリザベス・ウッドヴィルの魔術は原則的に呪詛。
他人に喜びや愛をもたらす為に使ってません。

愛をもたらす為、は、一回あったか。エドワード四世をたぶらかす、もとい、虜にするために。
結句、自分の欲望の為なんですよね。

他者を排除して身内だけで閉じこもる精神と内にこもる怨みの念は表裏一体なんだなぁと思います。

◆息子から王位を奪ったリチャードさんを呪った後に、エリザベス・ウッドヴィルは幻影を見ます。
読者ならばピンとくるはず。ボズワースでのリチャードさんの最期だと。
この予知イメージからすると、シェイクスピア版を用いるのかな、グレゴリーさんは。

◆年の功ゆえか、ジャケッタさんは娘よりはほんの少しマシな人となりでした。
少なくとも、何かと言えば呪詛につっぱしる娘をなだめる程度のことはしています。

それでも、自分を信頼してくれた主人であり、自分を捕虜の身から解放してくれるマーガレット・アンジューについて、「愛人がいたにきまってる、王太子がヘンリー王の種のはずはない」(意訳)とほざいたぞ。

さすが、エリザベス・ウッドヴィルの母です。かわいいのは身内だけなんでしょ、きっと。

◆ジャケッタ&エリザベス・ウッドヴィル母子が、一卵性母子のようにぴったりくっついてて気持ち悪いったらないわ。「身内だけに向けられた愛」が印象づけられます。

◆シセリィ・ネヴィルさんの設定がひどすぎる。
エドワードを嫌っていて、ジョージを偏愛していて、かつ下級貴族出身の嫁エリザベス・ウッドヴィルが気に入らないってことで、「エドワードは夫の子ではない」との噂を肯定して、王位からひきずりおろそうと脅しをかけたり、陰謀に加担したり。

嫁憎さとはいえこの動きはないよ(泣)。

人物像のデフォルメや捏造がいけないとは言わないけれど、読解力不足ゆえ、作者がこんな設定にした意図がわかりません。

流れからして、「母が非常識な手段を用いて君を排除しようとしているけれど、わたしの愛は永遠に君のものだよ!」「周囲のいかなる妨害にも、わたしたちの愛は不変だわ!」と主人公カプの愛の絆を讃えたいのか??
あるいはエドワード四世を支えるのはエリザベス・ウッドヴィルだけ!と強調したかったのか?
はたまた、愚母シセリィ・ネヴィルと対比して、ジェケッタの慈愛の賢母ぶりを際立たせるため?

いずれであっても、主人公ageがあざとすぎて、シセリィさんが気の毒・・・。

作者の崇高な意図がおわかりになる方がいらっしゃれば、ぜひ教えて下さい。

◆批難ばっかりもなんなので。
尊大なエリザベス・ウッドヴィルの語り口に辟易となりがちなこの物語の中で、エド兄さんのきらきらハーレクイン・ヒーローっぷりはオアシスでございました。

決め台詞は「妻よ、ベッドへ」

なおこの小説は露骨かつ詳細な濡れ場描写はありません。

エリザベス・ウッドヴィル&エドワード四世のカプ好きの読者には美味しいお話かも。
樫の木の下で出会って互いに運命的な一目ぼれして、死が二人を別つまで、砂を吐きそうなゲロ甘いちゃラブ夫婦でしたから。

エドワードは、計十二人の子どもを産み落とした四十路を過ぎた体の妻を「若い恋人を見るように」見つめてくれる夫です。
視線の先がボスママ・エリザベス・ウッドヴィルでなければ、祝福できるいい夫ぶりだったんだけどなぁ。

◆オアシスといえば、エリザベス・ウッドヴィルの父、リチャード・ウッドヴィルは、この物語の中では毒のない比較的まっとうな人物でした。

弟のアンソニー・ウッドヴィルも「我々一族は私腹を肥やし過ぎたかもしれない」と、自分たちを省みる程度にはまともな人間です。「かもしれない」と、自分たちに甘いもんですが。

いい人は早死にするのね。

◆「誰もあんな若造のために戦わないわ。ヘンリー・チューダーは問題外よ。あの子は決してイングランドの王にはなれない」

↑ジャケッタさまのお言葉です。彼女、予知もできるというふれこみなんですけど(笑)。

予知能力なんてこの程度、あるいは予知なんてありえないとのとのリアリズムがよろしい。

◆続巻への期待を抱かせるひっぱりぐあい。
甥っ子のうち、次男リチャードはパーキン・ウォーベックとなるのか?
彼を庇護するブルゴーニュ大公未亡人マーガレット姉さんにも出番があるか!?
おとなしく、種を植えつけられる雌鶏のままで終わりそうにないエリザベス・オブ・ヨーク。

そして、意外と嫌いになれなかったマーガレット・ボーフォート。
ヘンリー・チューダーの母であり、他にもいろいろ理由があって嫌悪を感じる人物なのですが、この物語でちらちらと姿を見せる彼女にはあまり嫌悪がわきませんでした。

訝しかったのですが、おそらく、永遠の新婚さんいらっしゃい状態で、心身ともに夫に愛されてリア充満喫中の語り手(エリザベス・ウッドヴィル)から、神様おたくの喪女と見下されているので、シンパシィを感じるのでしょう。
喪女の逆襲に期待します(笑)。

小説全体の印象としては、俗説学説他、シェイクスピアも取り入れて、うまく料理している感じです。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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