2014年04月26日 (土) | Edit |

「旦那さまの異常な愛情」
著者:秋野真珠
イラスト:gamu


◆マリスは早く子どもが欲しいと願っています。
しかし、その動機は、よくある、子どもが欲しいからでもなく、公爵家に跡取りが必要だからでもなく、跡取りを産んだらジャニスの立場も安定するからでもなく、後継者(子ども)に公爵家の仕事をさっさっと譲って引退し、ジャニスと余生を過ごしたいから。

だったら、未来の妹婿に譲ればよろしいのでは(笑)?
妹さんは来年社交界デビューらしいので、そうなれば縁談も寄せられるでしょう。
子どもの成長には十数年を要します。それを待つより、有能な妹婿に任せれば、数年後には引退できますよ。

それはさておき、前途有望かつ才気あふれる青年子爵であっても、やっぱり男ですねえ。妊娠、出産に伴って起きるであろうトラブルを全然想定していない様子。

ジャニスは自分を振り回し続ける若い夫をやりこめたいと願ってましたが、次の三点を侍女たちに指摘させれば、充分に悩むと思います。

「旦那さま、母親にとっては、赤ちゃんが一番大切です。お子さまが生まれましたら、奥さまは旦那さまにかまっている暇はありません」

「旦那さま、奥さまがおめでたとなられましたら、愛し合うのは辛抱していただかなければなりません。」

「旦那さま、医師も助産師も最善を尽くしますが、妊娠出産は命がけです。奥さまが命を落とされる可能性もあると覚悟しておいて下さい」


(1)まず、ジャニスは優しい女性なので、赤ちゃんを産んだら、その子を大切に慈しむと思います。
一般的にも、母となった妻の関心と愛情は、夫よりも、親が手をかけないと生きていけない赤ちゃんに集中します。

さて、マリスがこんな状況に耐えられるでしょうか?
ジャニスを独り占めしたい、自分だけのものでいて欲しいと望んでる子なんですよね、マリスは。
ジャニスが赤ちゃんに愛情を注いだら、自分がないがしろにされていると、すねるんじゃないでしょうか。
赤ちゃんへの授乳にいたっては、ジャニスのお乳を吸う権利は自分だけのものだ!と、断固妨げそうです。

まあ、貴族階級の赤ちゃんには乳母がつくものですが、先にも書いた通り、ジャニスは優しい女性だし、既に両親を亡くしてるから、我が子の誕生はとても嬉しく、赤ちゃんのために時間を割きたい、世話もしたい、と思うんじゃないでしょうか。

さてさて、マリスが、自分がジャニスにとって一番じゃない状況に耐えられるでしょうか?

(2)次に、非常にデリケートと言うか、他人の耳をはばかる話題でありますが、「妊娠したら夫婦関係は制限される」(お察しください)。

マリスって、すごい元気なんですよね(お察しください)。
性欲盛りの17歳、しかも、ヒストリカル少女まんがの舞台設定であっても官能小説なので、全編ノンストップの勢いで、夜だろうが、朝だろうが、昼だろうが、王城だろうが、マリスの実家の公爵家だろうが、時も場所も選ばず、ジャニスを愛していました(お察しください)。

こんな子が、妊娠中の妻を労って、辛抱することができるんでしょうか。

安定期が過ぎれば解禁されるとも言いますが、体調によっては、制限期間は長引きますし、臨月が近づけば、これまた自重でございましょう。
産まれたら、産まれたで、産後も大事をとらなきゃならないし。(そして、先に述べた通り、母となった妻にとっては、赤ちゃんが一番大切現象も起きます。)

平安時代、花山天皇は女御の藤原忯子を熱愛するあまりに、妊娠中であるに関わらず宮中に呼び戻し(妊娠中は出産を終えるまで、里下がりするのが通例)、寵愛し、結果、藤原忯子を死に至らしめました。

ジャニスが妊娠した場合、マリスは辛抱できるんでしょうか?
大事なことなので二度言いました。
と言うか、ジャニスが妊娠したら、わりかし長期に渡って、辛抱しなければならない状況に陥るってことを理解しているのか?マリス・・・。

(3)最後に、一番重要だと思うのは、「妊娠・出産は女の命を奪うこともある」

現代日本に住んでいると忘れがちですが、かつて妊娠出産は「棺桶に片足かけて果たす女の大厄」とも言われ、死に至ることも珍しくありませんでした。(現代でも医療の不断の努力によって、「母子ともに無事」が実現されているのです。)

この物語世界でも、マリスの父バドリク公爵の二度目の奥さんは、産褥死しています。
公爵家のような、生活水準が高く、ハイリスク妊娠の恐れが少なく、万一の場合、医師にかかることのできる環境でも、お産をきっかけに死ぬことが有り得たのです。

さあさあ、どうする、どうする?マリス(笑)?
妊娠と出産がジャニスの命を奪うかもしれませんよ。
それでも子どもを作りたいですか~?

マリスは血を分けた我が子にはこだわってないので(「後継者なんて仕事ができれば誰だってかまわない」)、ジャニスを危険にさらすくらいなら実子を望まないでしょう。
しかし、ジャニスとの交わりを自制することもできないでしょう。
でも、妊娠出産はジャニスの命を奪う可能性があって・・・。
けれど、ジャニスを愛したい・・・。
(ループ)

さあさあ、どうする、どうする?マリス(笑)?

この物語世界に確実な避妊の手段があるといいね!


星新一著「殿さまの日」
「ごくふつうの殿さまの有り様を描いている。決まりきった日常で、たとえやる気があってもそれがかえって幕府に睨まれる元になってしまうので無気力化して、じっとおとなしく平凡な人生を終えるしかない。(「レーヌスのさざめき」内「話虫干 殿さまの日 八雲」より引用


このお話でわたしが大好きなやりとりがあります。
殿さまの正妻さんは、姉がお産で死んだこともあり、「嫁いだからには、この家の為に死ぬ覚悟はできている。けれど出産で死ぬのは気がすすまない」と妊娠を拒み、殿さまも、妻が将軍家ゆかりの姫であること、また、妻に愛情を抱いていることもあって、「大事な正妻をお産でなくすわけにはいかない」からと、夫婦関係は持つ一方で、妊娠出産は側室に任せていました。

本作「旦那さまの異常な愛情」の世界には側室制度があるようですが(国王特権?)、マリスはジャニス以外には挿入したくない・・・、もとい、ジャニス以外を愛したくないから、仮に側室制度があっても活用する気はないだろうなー。

◆マリスなら、「子どもが欲しい」という動機に、「ジャニスが逃げ出さない担保の確保」があってもいいんじゃないかと思いました。

ほら、ジャニスは優しいから、子どもがいれば子どもの為にも、マリスと別れようとは考えないと思えますので。

◆この物語世界に避妊の手段があるかどうかは不明です。

国王は15歳からの10年間で、30人の側室を迎えました(ジャニスは入宮時のまま放置されたので、実質29人)。
けれど、庶子の話題は出てきませんでした。
設定そのものがなかったのか、あるいは設定はあっても物語の本筋に無関係なのでスルーされたのか、国王が男性不妊なのか、はたまた王家秘伝の避妊法でもあるのか。

この物語世界に有効性の高い避妊の手段があるといいね、マリス(笑)。

◆「子供を産むことを改めて考えてみると、ジャニスは途端に不安になる。
ジャニスはもう二十七歳だ。できるかどうかはさておいて、丈夫な子を産んであげられるだろうか。(後略)」(p272より引用)

ああ、女って、女って、女って(泣)。
どうしてもこうも、赤ちゃんが丈夫でない責任は全て女にあると思い込まされているのだろう。
どうしてこうも、女だけが、加齢とともに生殖能力が衰えると思い込まされているんだろう。
加齢とともに失えば、女としての値打ちもなくなり、男を選ぶことができなくなると思い込まされているのだろう。

男どもは、四十、五十、六十、七十、八十になっても、あつかましく、身の程知らずに要求してくるのに。
「子どもが欲しいから二十代前半、妥協して二十代後半までの嫁がいい。羊水が腐る三十代のばばあは問題外」
「女の卵子は劣化するが、男の精子は毎日再生産されるから劣化はない!!」
「だから、男は年喰っててもいいんだ、しかし、年喰って卵子の劣化した女はもはや粗悪品。障害児を産む、そんな粗悪品など選べるか。男は優良な若い女を求める権利がある!!!」

ばーか。

外部リンク:
【男性も早く子どもを作った方がいいですよ】
【精子の老化…DNA配列の変異増加】
【男性も要注意!子供を作るタイムリミット「35歳以上の場合、不妊症のリスクが増える」】
【女性だけじゃなかった。男性の「不妊症」を知っておこう】

(最後のまとめの見出し「女性だけじゃなかった」って、今更何言ってんだ、アホとしか言えませんわ。)

精子は毎日再生産されるとしても、それを作り出す本体は、「劣化」から免れているわけじゃありませんよ。

スペイン・ハプスブルク家を断絶させた「呪われた子」カルロス二世。
彼が子孫を繋ぐこともできないほど劣弱であったのは、ハプスブルク家の何重もの近親婚が原因と考えられていますが、父であるフェリペ四世が老齢(当時56歳)であったのも悪因子のひとつだったんじゃない?と思います。

随分前から、不妊であることは女だけの原因でないと指摘されながら、殿方が知ろうともせず、見ようともしてこなかった男性不妊。
今後、きちんと研究や啓蒙が進むことでしょう。
自分たちも「劣化」し、「不良品」扱いされると分かった時、殿方はどうなさるでしょう(笑)。

閑話休題。

繁殖を想定するなら、男も若い方がいい。
繁殖を求めるなら、女だって、若い男と番う方が断然よろしい。

ジャニスは丈夫な子どもを産んであげられるかと心配してますが、まず、女の27歳なんて繁殖盛り。不安に陥る必要はないです。
そして、なんといっても夫が若い!

【吉永小百合夫妻では安心できまい】でも紹介しているアリエノール・ド・アキテーヌは、初婚時の15歳から30歳の15年間、2歳年上の「修道士」のような夫との間には二女しか産めませんでしたが、精力的な年下の夫と番ったら、めでたく、8人の子持ちにw
なお、アリエノールは再婚時で30歳です。夫のヘンリー二世は11歳年下。二人が15年間で儲けたのは五男三女でございます。

大事なことなので、リピートしましょう。
繁殖を想定するなら、男も若い方がいい。
繁殖を求めるなら、女だって、若い男と番う方が断然よろしい。


ジャニスは、若くて精力的な夫に恵まれてるんだから、心配することないです(笑)。

ついでにも一つ歴史ネタ。
「27歳」で思い出した女性(ひと)。
ランカスター公ジョン・オブ・ゴーントの娘フィリパさんは、ポルトガルのジョアン一世(30歳)と、27歳で結婚し(ほぼ直後に誕生日を迎えているので、実質28歳みたいなものか)、夫婦仲も円満で、衆に優れた六男三女の子宝に恵まれています。(日本語Wiki「フィリパ・デ・レンカストレ」の項目参照)

追記.
「繁殖」と言う大義名分がなくっても、「若さ」が恋愛において相手に求める重要な要素であるのは男であれ、女であれ変わらないと思います。

ただ、男の女に対する若さ要求は無制限に、無軌道に容認されています。
だから、還暦すぎたクソじじいが18歳の未成年を強姦したり(鹿児島)、57歳のクズじじいが38歳の女性をストーカーの挙句殺す事態(大阪・平野)も起きる。
じじいの自分が、年の離れた若い女にとって対象外であるのがわからなかったのですね、きっと。

一方で、女が若い男を求めたら「年も省みず身の程知らず」、年齢差が大きければ「色きちがい」扱いされる歴史と現状、この非対称性は心に留めておきたいと思います。
あなたは「伊勢物語」第63段を知っていますか?

関連前エントリ:【秋野真珠「旦那さまの異常な愛情」(その1)】
関連後エントリ:【秋野真珠「旦那さまの異常な愛情」(その3)】

他関連エントリ:【秋野真珠「変態侯爵の理想の奥様」】
【秋野真珠「愛玩王子と姫さま」&桜井さくや「執事の狂愛」】



しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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