2014年12月20日 (土) | Edit |
今回は、「その2」とは逆に、「美化する創作」としての北条政子です。

藤内光澄。
堀藤次親家の郎従。
木曽義高追討の命を受け、見事義高を討ち取る。
しかし、義高の死によって、婚約者・大姫が傷心のあまり人事不省に等しい状態に陥った為、責任をとらされ、梟首された。

「責任をとらされ」と書きましたが、これは変です。
だって、藤内光澄は主の命令に従っただけなのですから。

「責任をとらされ」の箇所は、わたしが以前に読んだ歴史本では、「娘が衰弱する様子に憤った政子が、夫をせっついて、義高に手を下した郎党を誅させしめた」との説明でした。
要するに、現代のモンスター・ペアレントさながらの逆恨み。

しかしながら、政子に肩入れしている歴史創作ではそのような叙述にはなりません。

◎ 市川ジュン「華の王」(まんが)
政子に声高に批難された堀藤次親家が詫びとして藤内光澄を誅殺した。
無辜の家人が殺された事に政子は大ショック。

◎ 永井路子「北条政子」(小説)
政子の批難に対して堀藤次親家が詫びとして藤内光澄を誅殺した。
予想外の成り行きに政子は大ショック。

◎ 吉屋信子「女人平家」(小説)
妻に責めたてられた頼朝が強妻への申し訳に、堀藤次親家に藤内光澄を誅殺させた。
「無益な殺生をなさることかな」と政子大ショック。

三者とも、
藤内光澄の誅殺は政子が望んだことじゃなかったんだよ、
藤内の上司や頼朝が気を回して勝手にしたことだよ、
政子に非はないよ、
と、描写しています。

歴史本と小説(まんが)、どちらが真実に近いのか?
常識的に考えれば、創作である小説とまんがではなく歴史本ですが、史料を確認するまではと、断定を避けておりました。

さて、「吾妻鏡」によれば、

十七日 甲甲、堀藤次親家の郎従梟首せらる、是御台所の御憤に依るなり、去る四月の此、御使いとして志水冠者を討つの故なり、其事巳後、姫公御哀傷の余、己に病床に沈み給い、日を追いて憔悴す、諸人驚騒せざる莫し、志水誅戮の事に依りて、此病に有り、偏に彼男の不儀に起こる、縦い仰せを奉ると雖も、内々子細を姫公の御方に啓さざるやの由、御台所強に憤り申し給うの間、武衛遁逃する能わず、還りて以て斬罪に処せられると云々
(「吾妻鏡」元暦元年七月の項より引用)



む、む、む、む、む。
政子贔屓で解釈すれば、「偏に彼男の不儀に起こる」と責めつつも、「処刑せよ」とまでせっついていないように読めます。
が、政子が藤内光澄の誅殺を頼朝に訴え続けた、との理解が妥当なんでしょうね・・・。

市川さんも、永井さんも、「吾妻鏡」をお読みですが、それでも、「政子に非はあらず」と描写なさいました。
(吉屋さんが「吾妻鏡」をお読みなったか否かについては、わたしにはわからなかったので、お名前を外しました。)

「主人公に都合の悪いことはほおっかむりする気か!」とやり玉に挙げたいのではありません。
歴史創作とはこういうものだ、と言いたいのです。

作家が目指すのは「史実の再現」じゃなくて、「読者を魅了する創作」であり、「創作としての面白さ」「創作としてのつじつま」と「史実」「実在人物への敬意」を秤にかけた場合、作家は前者を選ぶのだと。

わたしが、川原正敏さんの「修羅の刻 義経編」のように、自分にとってストレスフルな作品に対しても、「史実」だの「実在人物への敬意」だのを振りかざして誹謗しないのは、自分にとって好ましい作品もまた、「史実」や「実在人物への敬意」に縛られて欲しくないからです。
後者だけ擁護して、前者をたたくようなダブルスタンダードなジャッジはしたくありませんから。

同様に、わたし自身の「好き嫌い」を大事にしたいから。

そりゃ、「好き!」「嫌い!」は度々、エントリではっきり述べてます。
けれど、それらはあくまでもわたしの感じ方です。「史実」の裏付けがあるから、自分の「好き」あるいは「嫌い」が正しいとは考えてません。

なにが言いたいかと言うと、自分の気に入らない歴史創作に対して、「史実」だの「実在人物への敬意」だのを持ち出して指弾するのは、自縄自縛に陥るんじゃないかなってことです。

しょせん、
「共感できればいい作品」
「共感できなければ悪い作品」
でしかないのですから。

歴史小説は(中略)作品全体にその作家の価値観が投影されるため、共感できればいいが、少しでも違和感があると読むに耐えない。ことに自分が好きで詳しく調べた分野が、妙な脚色でとんでもないことになっていたら、書店でその小説をみかけるだけでストレス指数が上がる。
青池保子「『エロイカより愛をこめて』の創りかた」第13章)



関連前エントリ:【作家は面の皮が厚くなければ生きていけない(その2)】
↑その2では、今回とは逆に、「貶める創作」としての北条政子を採りあげています。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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