2015年04月17日 (金) | Edit |
(注意)川田弥一郎さんのミステリ「銀簪の翳り」のネタばれが有ります(反転仕様)。

別エントリ、【アンドレが童貞でないことを受け入れる女性読者の心理について】(リンクは末尾)の続編です。






名香智子
「おネエさま、おてやわらかに!」(「桃色浪漫」収録)


「だって、女が初めてなのに、男まで未経験だったら、お互い困るじゃない!女だって痛い思いしたら可哀そうよ!こういう場合は、男が経験済みの方がいいのよ!!」とのご意見への痛快なカウンターパンチとなる結末の物語です。

以下、本が手元にないので、記憶だよりです。

父親の再婚で、とある四人兄弟に義理の姉ができた。
彼女は、学生時代は成績優秀な優等生、今は、めっぽう色っぽい美人、彼女をめぐって四兄弟に起きるラブ・バトル!?
と、エロゲでもラブコメでもありふれている設定です。
結句、お義姉さまは長男とくっつくのですが、結婚式にて、「あーあ、義姉さんの処女は兄貴のものかあ」と嘆息する次兄、三兄を尻目に、義姉のウィンクが末弟に飛ぶ。

ここで場面は一転、オチの一コマ。
シーツの上で、義姉と末弟のつなぎあった手のアップ。
そして義姉のセリフ。

わたし、なにごとも予習しとかないと気がすまない性格なの。
末弟くんなら、初めて同士だから公平でしょ。



つまり結婚前に「予習」したのです。お義姉さんは。
自分が処女だから、同じ状態である、童貞の末弟くんを相手に。

おネエさま、かっこいい!抱いて下さい!!(違)
大好きです。この結末。

しかしながら、このオチ、画期的ではありますが、男性の「予行演習」とは非対称であることにお気づきでしょうか?

男が予行演習する場合、往々にして経験豊富な女が選ばれます。
一方、おネエさまは、経験豊富な男でなく、童貞くんを選びました。
多くは女の側が初体験で痛みを味わうのに、初心者である童貞くんを選びました。
「初めて同士だから公平」との理由で。
「減痛・無痛」でもなく、「快感」でもなく、「公平さ」、いわば、「対等」であることを選んだのです。

おそらく、「『処女を貫いた』優越感与えたくなかった」からだと愚考します。
なぜなら、「破瓜は男が女に押す烙印である」と認識されているのですから。

そして、男が往々にして経験豊富な女で脱童貞するのも、破瓜が烙印である以上、処女との性交は使い捨てではすまされず、いろいろと面倒事が増えるからでしょう。
脱童貞相手が処女であれば、「責任」とって結婚とか、通常の「買春」代金以上の大金で以て贖わねばならないとか。

そして、結婚式の時の次兄、三兄のセリフにも注目。
「あーあ、義姉さんの処女は兄貴のものかあ」
こいつらも知ってるのです。
「破瓜は男が女に押す烙印」だと。


立石和弘
「男が女を盗む話―紫の上は『幸せ』だったのか」


烙印の一種とも思える、女人往生と初体験をめぐる「三瀬川伝承」があります。

人は死して後三途の川(三瀬川)を渡る。その際、男は自力で川を渡ることができるが、女は男に背負ってもらわなければならない。どの男が背負うのかは、生前の男女関係によって決定づけられている。三瀬川で女を背負うのは、最初に性交渉を持った男である。
(同書、第一章、「三瀬川伝承」から引用)



だからこそ、おネエさまが童貞である末弟を選んだのは、相手が童貞であるならば、処女である自分の自尊心を守れるからだと推測します。

童貞でも男は、男。
経験済み男と同様、「俺は処女を抱いた!」「処女の体に烙印を押した!!」と優越感を抱くかもしれませんが、でも、童貞です。
経験済み男に対するよりも、その優位を砕き易いと思います。

「偉そうなこと考えるんじゃないわよ。
わたしは処女、君は童貞。『純潔』って意味では同じ立場だったんですからね。いわば対等!
君が『処女を抱いた!』とそっくり返るなら、わたしは『童貞を抱いた!』と威張るわよ。
だから、あまり偉そうに思い上がるんじゃないわよ」と、女性が自尊心を守り易くもあると思います。


S&A・ゴロン「アンジェリク」

「アンジェリク」1巻に、興味をひかれるエピソードがあります。
ペイラック伯爵ジョフレとの結婚が決まったアンジェリクですが、夫となる伯爵が醜い傷を持つ怖ろしい男と聞き、自尊心を傷つけられます。
そして、「わたしを最初に手に入れるのは、あの男じゃないと思い知らせてやりたい」からと、幼馴染のニコラを相手に、ヴァージン・ブレイクを試みます。
事が始まりかけたところで、司祭さんに見つかって、ニコラは逃亡、アンジェリクは説教をくらい、望み叶わず、処女のまま結婚することになりました。
その後、夫となったジョフレとラブラブ夫婦になり、波瀾万丈の人生の幕が上がるのですが、割愛(笑)。

注目すべきはアンジェリクを突き動かした動機。
彼女はニコラを愛していたから、せめて、処女のうちに彼と結ばれたいと願ったのではなく、結婚相手が気に入らず、「わたしを最初に手に入れるのは、あの男じゃないと思い知らせてやりたい」から、ヴァージン・ブレイクを試みたのです。

とはいえ、事が遂行されていれば、ニコラが「初めての男」となり、彼に優越感を与えてしまうのでは?との疑問があがります。
しかし、おそらくは、アンジェリクにとって、ニコラは領地の平民にすぎないから、仮に処女を貫かせても、アンジェリク自身が抱く「貴族の誇り」によって、アンジェリクの優位は変わらない。だから、ニコラを相手に選んだのだと思います。


川田弥一郎「銀簪の翳り」

「江戸の検屍官」シリーズで、一番、読後感のよろしくない一作です。
それはさておき、冒頭で注意した通り、ここから先はネタばれします。
ミステリなので反転します。

【反転開始】
ある商家の娘、お美代(処女)は、同じく商家の息子、儀三郎との結婚を嫌がっています。破談にしたいのですが、父は肯ってくれません。しかしながら、儀三郎がお美代に暴力をふるうことがあれば破談にするとの約束を父から得た彼女は、作戦を立てました。

その作戦とは、儀三郎を怒らせて、自分を殴らせるというもの。
儀三郎は風采の上がらない男で、絶世の美女であるお美代との婚約をとても喜んでいます。
ちょっとやそっとのことでは我を忘れて殴りかかるほどの怒りを呼び起こせないと案じたお美代の手段は・・・。

儀三郎に一発やらせて、性器の小ささ、手管のへたくそっぷりを罵ること。

その計画を実行すべく、お美代は事前に役者を買って、破瓜を済ませたのでした。

作中では、お美代が役者で破瓜を済ませた動機は先述の「作戦」の為としか説明はありません。
おそらく、詳細を説明しなくても察しがつくだろうとのことなのでしょう。

では、わたしなりの理解を述べましょう。

要するに、処女の体であっては、「一発やらせて罵る作戦」が成り立たないから。

お美代が処女であった場合、事後、罵られたら、多少は気分を害するかもしれませんが、「処女の体を貫いた優越感」に満たされた儀三郎にとってはたいした痛痒とはならないでしょう。
「初めてで痛かったから、そんなに怒ってるんだね、大丈夫、僕は優しくしてあげるから、すぐ慣れるよ」と受け流し、殴るほどに逆上することはないでしょう。
(付け加えると、儀三郎は性行為はお美代以前に何度も何人とも経験済みです。)

だから、お美代が役者で破瓜を済ませた動機は、

1) 儀三郎に「処女の体を貫いた優越感」を持たせたくなかった。
作戦成功の為に。

2) プロであれば痛くないよう事を遂行してくれると思ったから。
この点はお美代本人が、買った役者に打ち明けています。
「初めてなので乱暴にされたくない。慣れている人に丁寧に優しく突きぬいて欲しかった」と。

3) 下賤な身分である役者相手であれば、「処女の体を貫いた優越感」を与えることがないから。
買った自分の側が優位であると、自尊心を保ち続けていられるから。


役者側は、買い主が美女のうえ処女であったことに感激していましたが、その件を同心の北沢に説明する口調から推して、感激しつつも分を弁えていた感があります。
「処女の体を貫いた優越感」ではなく、「ご主人様から思いもかけないご褒美をいただいた喜び」を語る感じでした。

童貞、あるいは、身分が相当劣る相手でないと、処女が「予行演習」を果たす際、対等になれないなんて・・・。

【反転終了】


三田村鳶魚「御殿女中」

F・Yさん作、逆転「O奥」のご内証の方制度について。

上様の初めて相手としての栄誉を担うが、同時に未通女である上様の体を傷つける大罪を追う。よって、ご内証の方は死なねばならぬ。
(逆転「O奥」におけるご内証の方制度)



初めて「ご内証の方」の設定を読んだ時、胸のつかえがおりるような、愉快痛快爽快と三拍子揃った快さを感じました。

理由を説明できそうでできなくて、誰か他の人が考察していないかと、たまに感想を探しているのですが、今のところ、読み応えあるものは見当たりません。

無い知恵を絞って考えると、理由のひとつが、今まで述べた「男が抱く処女の体を貫いた優越感」が非常に不愉快であるからではないかと。

だから、「優越感」を宿す心ごと、肉体もこの世から消えてもらってるのではないでしょうか?

逆転「O奥」本編では、死罪となる理由を「上様の体を傷つける」からと説明されています。それは、「体を傷つける」のみならず、いついつまでも「処女の体を貫いた優越感」を有して、女の自尊心までも傷つけることも指しているのではと思うのです。


市川ジュン「陽の末裔」

トリを飾るは、「陽の末裔」の主人公の一人、南部咲久子。

咲久子は異例でした(笑)。
童貞でもなければ(推測)、身分下でもない、年上の海軍士官の青年相手に、ヴァージン・ブレイクを済ませ、相手に全く優越感を抱かせなかったんですから。

青年の側は咲久子に恋していたうえに、「みかけによらず一途」であった為、本人曰く「契り」を交わした翌朝、結婚する気まんまんでした。
きっと、「咲久子さんが処女を捧げてくれた」=「結婚だあ」と結びついて、舞い上がっちゃったんですね(笑)。

あいにく、咲久子にとっては、好奇心からの、いわば「お試し」に過ぎず、痛烈な拒絶を喰らっています。

求婚にけんもほろろな咲久子相手に、青年は
「君は!ぼくを無責任な男にするつもりか!?」と食い下がりますが、咲久子の返答のかっこいいこと。
「半分はわたしの責任だわ」

ごもっとも!
ほんと、なんで男の側が一方的に責任と取る!と、仕切っちゃってるんだ。

とはいえ、自尊心のある青年でよかったね、と思います。
ふられた後、しばらくは未練たらしくつきまとっていましたが、咲久子が次の恋に眼を向けたことを悟るときっぱり諦めていましたし、いついつまでも、「おれは咲久子の処女を奪った男だ」と振りかざすこともありませんでした。

むしろ、青年にとっては、咲久子の初めての男であるのは、惨めな記憶となったのでは?
結局、チ×コ、もとい、彼の恋情も情熱も、彼女に通じなかったのですから。

咲久子のことだから、青年の誇り高さも計算に入れて、お試し初体験の相手に選んだのでしょうけれど。

関連前エントリ:
【アンドレが童貞でないことを受け入れる女性読者の心理について】


今回で終えるつもりだったのですが、書いているうちに「チ×コ挿入万能ファンタジー」の表れとして、レズビアンへの蔑視が垣間見える男性が登場する三作品を採りあげたくなりました。↓
関連後エントリ:
【「月下美人」「クローディーヌ…!」「カルバニア物語」】


しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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