2015年05月31日 (日) | Edit |


Part2  Octavian in the West(40B.C. to 39B.C.)

◆まずは出会い編その1、「リウィア、夫とともにローマに向かう」パートからです。

ミセヌム協定が結ばれた後のある秋の日、フレゲラエ(Fregellae)近郊に、ローマに向かう一行がありました。
クラウディウス・ネロと幼い息子、そして妻のリウィアです。
財政状態が破綻気味なので、旅の支度も貧弱なものです。無蓋の二輪馬車と輿をかつぐ人間だけ。
夫のネロは、リウィアにも、輿に乗ることを許可してくれましたが、彼女は二つの理由で断りました。
運搬人がとても痩せていて哀れであったことと、夫と息子の傍にいたくなかったからです。

リウィアは徒歩を選びました。
理想的な秋晴れの中、周囲の景色に心なごみ、自分だけの世界に浸ることができましたが、宿についたとたん、現実に戻されてしまいます。

親切な宿屋の人に、ネロさんは尊大に言い渡します。
「わたしと息子が使った後も、風呂の湯は空にはしないように。妻が使うからな」

部屋に入るとネロは気難しげにリウィアを見つめました。
リウィアの心臓の鼓動が速くなります。気持ちが顔に出ないか気にしながら、いつものように、慎み深く、従順に夫の言葉を待つことにしました。
長年の経験から、夫が長ったらしい説教をするつもりだと悟ったからです。

「リウィア・ドルシラ。我々はもうすぐローマに着く。今後は、できる限り倹約に努めることをお前に命ずる。
ティベリウスは来年から教育が必要だ。まったく無駄な出費だ!
十分に倹約していくのはお前の責任だ。
新しい衣装、宝石、特殊技能のある召使、たとえば髪結師、化粧師はもう一切禁じる。わかったか?」
「はい、あなた」
リウィアは従順に答えながら、心の中ではため息をつきました。

リウィアが欲しているのは、髪結師やそれらではありません。
彼女が熱望してやまないのは、平穏、安全、そして非難されない生活でした。
彼女が望むものは、彼女が読みたいと思った時はいつでも本が読める場所、お金の心配をせずに好きな御馳走を食べること、奴隷のような受け答えをせずに済むことでした。

と、ここまでは「求める事」として尋常ですが、次からが普通でない!

リウィアが求めるのは、普通の人々が彼女の名に言及する時、賞賛と共に仰ぎみることでした。
オクタウィアのように。
ティアヌマ、カプア、ベネベンティウムの広場に彫像を持つマルクス・アントニウスの妻であるオクタウィアのように。
オクタウィアがしたことなんて、結局、三頭官の一人と結婚しただけじゃないのと思うにつけ、クラウディウス・ネロを夫にしている我が身が口惜しくなりません。

リウィアの様子に不審を抱いた夫は問いただします。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「はい、あなた」
「とっとと話せ」
「わたしは二人目を身ごもっているようです。息子だと思いますわ。ティベリウスの時と同じ兆しがありますもの」
驚いたネロさんは、不快げに足を蹴り
「リウィア、一体全体なんだってそんなことを!?二人目、ましてや息子をもう一人など、そんな余裕があるか!ローマに着いたらすぐにボナ・デア神殿で薬草をもらって来い!」
「少々遅かったようですわ、ご主人様」
「くそっ」「何か月だ?」
「ほぼ二か月でしょう。薬草の効果があるのは六週目までだそうです。すでに七週目ですわ」
「それでも薬草を使え」
「仰せのままに」
「なんて厄介だ!出て行け、出て行って、わたしに静かに風呂を使わせろ!」
「あなたはティベリウスが可愛くないの?」
「ティベリウスは言うまでもなくわたしの喜びだ。」
「古い街並みを見に散策に行ってもよろしいでしょうか?」
「お前など崖の向こうに行ってしまえ!」

クラ・ネロさんの人物造形がひどすぎる・・・(泣)。

◆続いて出会い編その2、「リウィア、遺跡で『彼』に出会う」を紹介します。

夫から逃れて、リウィアはフレゲラエ(Fregellae)の遺跡を散策しました。

ルキウス・オピミウスによる軍事的破壊によって、フレゲラエがゴースト・タウンと化してからほぼ80年経過しています。
(Wikiで調べたら、ルキウス・オピミウスは前121年の執政官でした。年数は合っています。)
破壊の発端は、当時の、植民地の市民がモザイクのように混じり合ったイタリア諸都市の抵抗にあり、やがて、それらの戦争は、リウィアの祖父、マルクス・リウィウス・ドルススの暗殺を引き起こしたのでした。

リウィアは祖父を思いながら、打ち壊された遺跡の中で、涙を浮かべながら物思いにふけります。
ネロの彼女に対する仕打ちときたら!
妊娠が全て彼女の科であるかのように批難して!
わたしが機会があれば彼のベッドに入ったとでも!?
リウィアは、アテネ以来、彼女の中で増大しつつある夫への憎悪を再認識しました。
結局のところ、忠実な妻は忠実な妻でしかありません。
彼女は、妻の義務に関するすべてを憎まずにはいられませんでした。

そんな風に考えながら歩いていると、涙の向こうに、彼女に近づいていくる一人のローマ人の姿が見えました。
最初は隠れる所を探しましたが、思いなおして、下に向かう通路を進み、遺跡のひとつに腰かけて「彼」を待つことにしました。

ここで、「彼」を待つことにした動機は不明です。
「彼」の正体に気付いていたのではなし。
「彼」のように天啓を受けたわけでもなし(後述)。なぜでしょう?
家に戻っても、ネロさんの不機嫌顔を見るだけだし、気晴らしになるとでもおもったのか??

「彼」は、紫の縁取りをしたトーガを纏い、王冠を戴いたかのような金の髪の持ち主でした。
足取りは優雅で毅然としており、ゆるやかなトーガの下の体は細身で、若々しいものでした。
「彼」がゆっくりと近づいてくるにつれ、顔立ちもはっきりと見えてきます。
とてもつややかで、美しく、力強く、それでいて穏やかで、銀色の眼は金色のまつげで縁どられていました。
リウィアはぽかんと口を開けたまま「彼」を見つめました。

もはやバレバレですが、「彼」はオクタウィアヌスです。
リウィアが夫のネロと一緒にいるのに苦痛を感じて散策にでたのと同様、オクタウィアヌスの側は、ローマで人々から悩まされるのにうんざりしてフラゲリエまで気晴らしにきたのでした。
(気晴らしにしては、ローマ‐フラゲリエ間は離れすぎという気がしますが、もしかして他に理由があるかも。わたしが読めていないだけで。)

さて、オクタウィアヌスは、フラゲリエの遺跡の静寂をみるにつけ、平和とは、なんと美しく、必要なものだろうと痛感せずにはいられません。

そして、遺跡の静寂の中、ここ数年、オクタウィアヌスの心を蝕いでいる孤独感、自分にふさわしい人間は誰一人いないのだという事に気付いてしまった事が蘇ってきます。
もちろん、アグリッパは別ですが、オクタウィアヌスが求めているのは、母か姉のような存在でした。
オクタウィアがアントニウスに捧げているような、女らしさと自己犠牲が見事に調和した愛情を持つ存在、あるいは、母がフィリップス・ジュニアに捧げているよう・・・。母に想いが及ぶと、彼女の不貞を思い出し、母の事を頭から振り払い、姉のことだけを考えます(本作では、アティアは二度目の夫の死後、義理の息子と恋愛しています)。

ローマ史上もっとも素晴らしい女性である姉オクタウィア。
なんだって、アントニウスのような野蛮人に満ち足りた憩いが与えられてるんだ?
と、悪態をついた所で、オクタウィアヌスも一人の女性に気づきます。

最初、「彼女」は彼に気づくと、隠れる場所をさがしているようでしたが、遺跡のひとつに腰かけました。
頬に伝わる涙が、強い光の元、きらめいています。
オクタウィアヌスは、最初、「彼女」を幻想かと思いました。
しかし、しばし立ち止まり、彼女が現実の女性であると気付きました。
美しい両手は膝の上に下ろされ、素晴らしく魅力的な小さな顔は、最初彼を見、次に地面を見つめました。
宝石で身を飾っていないにも関わらず、「彼女」にはなんら卑しい所はありません。
偉大な貴婦人であることは、彼には一目で理解できました。

辻邦夫さんの小説「背教者ユリアヌス」における、ユリアヌスがエウセビアに出会う場面に通じる美しさがある、と、思いました。
出会った女性を非現実的な存在(女神等)として受け止めているあたりが。

突然、オクタウィアヌスは「彼女」が「神のメッセージ」であることを、理解しました。
「彼女」は「彼」に送られた者であると。神からの贈り物であると。
この申し出を拒絶することはできない。拒絶してはならない。
オクタウィアヌスは、神君カエサルに向かって、ほとんど叫びそうでした。
「彼女」に話しかけろ!魔力を解き放て!!

次回は「オクタウィアヌスの求婚」を紹介します。
次回は会話が主なので紹介もラクです。ありがたや。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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コメント
この記事へのコメント
素敵ですね...。
お久しぶりです!

いやー!なんとも美しい出逢いですね!!この二人なら、互の境遇からこのように共感し合っても不思議じゃないような気がします。HBOのローマでの出会いのシーンは、正直、なんか腹黒さばかりでしたけど、やっぱりオクタウィアヌスの心を蝕いでいる孤独感に、リウィアの美しさが神の啓示として現れるなんていいですね。

それにしても、ティベパパであるクラ・ネロさんの人物造形は酷いですね。しかし、男として、こういう輩が結構いるな~って妙に納得しました。些細なことで激怒して、引くに引けなくなって、自分は正しいと信じ込んで、結果、自分の状況を打破することも、大きく変える術も持たない臆病者が。

若い頃のオクタウィアヌスも短気だったと言われてましたが、リウィアからすれば、怒りの次元が違うことをしっかりと見抜いていたのかもしれませんね。
2015/06/01(Mon) 20:15 | URL  | Josh Surface #-[ 編集]
Re: 素敵ですね...。
>Joshさま

こんばんは。

わたしの筆力では十分に表現しきれてないのですが、作者のColleen McCulloughさんは美男美女大好きらしく、二人の美貌描写にリキが入ってます。
だからなのか、容姿だけでなく、出会いもこの通り、美しく描かれました。

> それにしても、ティベパパであるクラ・ネロさんの人物造形は酷いですね。しかし、男として、こういう輩が結構いるな~って妙に納得しました。些細なことで激怒して、引くに引けなくなって、自分は正しいと信じ込んで、結果、自分の状況を打破することも、大きく変える術も持たない臆病者が。

人物造形としてこういうのも有りと思いますが、絵に描いたようなモラハラ亭主でためいきがでてきます。
Joshさんがおっしゃるように、結構いると思います。

> 若い頃のオクタウィアヌスも短気だったと言われてましたが、リウィアからすれば、怒りの次元が違うことをしっかりと見抜いていたのかもしれませんね。

若い時は、権力も安定せず、政争のただなかでしたものねえ。
アグリッパ、マエケナス、リウィアと協力者がいたとはいえ、よくがんばりました、オクタくん。
多少の残極さなど大目に見てやろうと寛大になれます(笑)。
2015/06/02(Tue) 21:11 | URL  | サラ #ndrEhoxc[ 編集]
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