2015年06月25日 (木) | Edit |
(注意)一応ネタばれにはならないよう注意しています。
しかし、史実ばれには配慮していません。



紆余曲折を経て、こうして紙本として出版された有難さを噛みしめつつも、取り残された設定やキャラを見るにつけ、続刊があることを願ってやみません。





紙本版「パピルスは神」

↑p41の「コルテリア」(雑誌掲載時)は「コルネリア」にちゃんと修正されていた。よかった、よかった。

     
電子(Kindle)版「パピスルは神」
三冊で紙本一冊分です。

↑電子版三冊の表紙を見て気が付いた。
キケロさん、カラー表紙に描かれていない・・・。
一応、Vol.3の表紙の左上(紙本では裏表紙)に小さく出てるけど(笑)。

■ 第1話と第2話 ■

諏訪さんの作品には「三人組」が頻繁に登場します。順不同で挙げると、

「玄奘西域記」の玄奘、ハザク、プー。
「シノワズリ・アドベンチャー」シリーズの眉寿、無彊、女禍。
「西の国の物語」のシリエル、バリエル、ザール。
「三蔵法師の大唐見聞録」の玄奘、ウッチ、円測。
「うつほ草子」の藤原俊華牙、春音、セライ・ナジャ(※1)

(※1)「うつほ草子」
三人組として挙げましたが、この物語は「陰陽」「男女」「天地」「善悪」といった「対となるもの」が題材なので、俊華牙と春音、この二人亡き後は、仲忠と女一の宮といった「二人組」がメインとなるお話だと思います。セライ・ナジャはオブザーバーですな。


そして今作の「パピルスは神」。
サブタイトルに「キケロ・カエサル・アッティクスの記」とあるように、共和政末期の内乱時代を背景にした、この三人のビルドゥグス・ロマンです。

この作品を見つけた時はびっくりしました。いろいろと。
ひとつは、諏訪緑さんは好きな作家さんの一人なので、その好きな作家さんが、わたしの大好きな古代ローマを、しかも最も好きな共和政末期の内乱時代を題材に採って下さったことに。
また、諏訪緑さんが今まで手掛けてこられた地域は、オリエントだったので、西洋古代史を手掛けられたことにも。
ただし諏訪さんの初期の短編集「紀信」には、古代ギリシアを舞台にした「予知の輪」「迷宮の美技」が収録されています。

そして最大の驚きは、アッティクスが主役の一人であること
ええ、驚きましたとも。目が飛び出すくらいに。
カエサルが主役になるのは驚かない。
キケロであっても驚かない。
しかし、アッティクスですよ。
そりゃ、あの内乱時代に財を成し、粛清の嵐にも巻き込まれず生き延びた商売人であり、教養人であり、キケロの親友として名高い人ですが、まんがの主役になるとは。

アウグストゥスさますら主役になったことはないのに(※2)、アッティクスのくせに生意気だ~と思いました(笑)。

(※2)さかもと未明さん作画「マンガ ローマ帝国の歴史」2巻は、アウさま主役なのですが、こちらは学習漫画の一種ということで、今回はカウント外にさせて下さい。
「マンガ ローマ帝国の歴史」2巻自体は、好き嫌いが分かれる作画ですが、いい内容です。


このアッティクスが、ちょっと不思議な能力を持っているという設定で、双子の妹でウェスタの祭司長であるポンポニアと、額を合わせてることで、記憶(未来予知も含む?)を伝え合うことが出来るらしいです。

その他にも、謎の女性と少女が現れ、風を起こす等超常現象もあり、ファンタジー要素の部分を、アッティクスが負っているように思います。
カエサルとキケロは、もっぱら超常現象に巻き込まれているだけで、現実路線の造形です。

ローマ史好きにはともかく、一般読者には無名のアッティクスを主役の一人に抜擢し、プラスアルファのキャラ立ちもありってことで、もしや、アッティクスがキーパーソン?

「歴史上初めて公刊人(編集者)として名を残す、ティトゥス・ポンポニウス・アッティクス」、第一話はこのナレーションで締めくくられます。

ローマ史好きならご存知のように、カエサルは「ガリア戦記」を、キケロは書簡の他、自らの思想を著述して刊行しています。
ではアッティクスは?
彼自身は著作を残さなかったけれど、二人の友の思想なり、行動なりを「書物」として後世に残す者としての役割でしょうか。

好きな作家さんが、好きな時代を描いて下さって嬉しいですが、なかなか難しい物語です。

◆第一話でアッティクスのビジョンの中に登場した女性はクレオパトラさんか?
あるいは、読者にクレオパトラと思わせるミスリード(mislead)か。

年代が合いませんが、不思議要素もある話なので、万一くらいの可能性でクレオパトラさんかもしれないと思いつつ、パピルスの精かなあとも思います。

◆カエサルの最初の奥さん(作中ではまだ婚約者)コルネリアさん登場。
自分の意志と意見を持つ、しっかりした娘さんです。好感度大です。

◆キケロが越後屋の番頭さんだった。
ちゃうちゃう、丸メガネをかけてただけです。

今は元気に楽しく三人でつるんでいるけれど、39年後には・・・(泣)。

◆カエサル、頭髪を大事にしろよ(笑)。
とりあえず、脳内で、諏訪さんがアウさまを描いたらこんな感じの外見~と思いながら読んでます。

◆第2話で登場のピッパちゃんの正体は?
最初は、アッティカちゃんと思ってました。アッティクスの娘が、時空を越えてやってきたのかなあと。

しかし、もしかすると、パピルスの精かも(先のクレオパトラもどきさんに続いて、再度この予想)。
ピッパちゃんが炎に包まれるビジョンを見た場面で、あ、これはアレキサンドリア図書館の炎上かも!と思ったので。
しかし、このビジョンは第2話のおやっさんの書店の火事を指している可能性が高いな。

ピッパちゃん、アッティクスが他の女性のことを考えるとやきもちを焼いているみたいなので、もしやもしやで、アッティカちゃんの母になる女性なのかしらねえ(兼パピルスの精)。

◆このお話、なかなか難しい物語だと思ったのは、お話の流れとか、着地点がわからないからかなと考えます。

「アグリッパ-AGRIPPA-」は、アレシアの戦いへと導かれるガリア戦記もので、ウェルキンゲトリクスの敗北がひとつの終点とわかってました。
「薔薇王の葬列」は、リチャード三世王位登極もので、ボズワースの戦いが終章でしょう。

では、「パピルスは神」は?
ローマ史の流れやら、主役三人のこれからの人生はだいたい把握していますが、お話がどう進んで、最終的にどこに着地するのか見当がつきません。
タイトルに「パピルス」が入っていて、「歴史上初めて公刊人(編集者)として名を残す」者としてアッティクスが紹介されていて、彼と共にいるのが、史上名高いカエサルとキケロ、とくれば、人の業績、事績を、紙(パピルス)に書き残し、後世へと伝えていく、いわば「歴史を書き留め、伝える事」を描いていくのかなあと思いますが、ひとつの考えにすぎません。

物語の冒頭のナレーション(あるいは詩?)も、難解です。

お話自体もどこまで進むのやら。
カエサル暗殺までか、キケロの死までか、はたまた死期を悟ったアッティクスが餓死を選ぶまでか。
「時の地平線」はあわただしくはあっても、孔明の死まで描かれましたが。

なかなか難しい物語なので、キャラ語りを。

◆カエサル
カエサルと言えば老人、と言いますか、「ローマが産んだ唯一の創造の才ある天才」(byモムゼン)との評にあるように、軍才、文才、政治の才、あらゆる才能を有し、それらを駆使して、ローマを共和政から帝政へと導いたカリスマ的な指導者のイメージがあるので、未だ何も持たず、何も為さず、強大なスッラの権力の前に立ち向かう「若者」の姿で登場したのが新鮮です。

ラブコメパートと呼べばいいのか、コルネリアさんに対する態度も、ツンデレならぬ、ツンツンで、見てて面白いです。
お前好きなんだろ、めっちゃ好きなんだろコルネリアさんを~と、からかいたいくらいです(笑)。

主役三人の中では短く刈り込まれた頭髪が、一番ローマ人らしいデザインです。

いい機会なので、この顔でまつ毛がもう少し増えたら、オクやんだと想像しながら読んでます。

◆キケロ
カエサル以上に、老人のイメージが強い人。
とりあえず、カエサルはカーク・ダグラス版の「スパルタカス」のチョイ役で、ジェレミー・シスト主演の「ジュリアス・シーザー」で、若い日の姿が出ましたが、若いキケロは本邦初ではないでしょうか。
そして、まさかの綿菓子ヘアーと、越後屋の番頭めがね。いえ、紐かけ丸メガネ姿であっただけです。

今のところ、普通にいい奴です。
よく言われる、自惚れが強くて、お世辞と逆境に弱い、俗物っぽいところはありません。
偉そうにふんぞり返って存在感抜群のカエサルと、後述する不思議な力に恵まれたアッティクスに比べて、やや影が薄いのですが、地道に証拠を整え保護し、スッラへの対抗手段を講じていて、さらに、友情にも篤いという、申し分ないキャラです。

◆アッティクス
キケロの親友として、書簡の取り交わし相手として知る人ぞ知る存在ですが、わたしが知る限りでは、映像作品で登場したのを見たことがないです。(HBOドラマ「ROME」にも、「ローマン・エンパイア」にも、数かすのクレオパトラものにも)
まさか、日本の少女まんがに主役の一人として登場するとは。

この物語は、アッティクスのローマ帰還から始まります。
また第1話、第2話の引きは、アッティクスが担いました。

対妹ポンポニア限定とはいえ、本人はテレパシーという超常能力を有し、周囲に超常現象が起きています。

という事で、目立つ要素が付加されているので、この人はカエサルとは別の立場でキーパーソンではないかと思います。

何度も書きますが、「歴史上初めて公刊人(編集者)として名を残す」とナレーションもされていますし。
カエサルの、キケロの、その他「歴史」を書き留めた書物を残す者となるのではないかなあと想像しています。

■ 第3話と全体を読んでの感想 ■

◆「感想・第1話と第2話」で書きました。

このお話、なかなか難しい物語だと思ったのは、お話の流れとか、着地点がわからないからかなと考えます。
(中略)
ローマ史の流れやら、主役三人のこれからの人生はだいたい把握していますが、お話がどう進んで、最終的にどこに着地するのか見当がつきません。
タイトルに「パピルス」が入っていて、「歴史上初めて公刊人(編集者)として名を残す」者としてアッティクスが紹介されていて、彼と共にいるのが、史上名高いカエサルとキケロ、とくれば、人の業績、事績を、紙(パピルス)に書き残し、後世へと伝えていく、いわば「歴史を書き留め、伝える事」を描いていくのかなあと思いますが、ひとつの考えにすぎません。



・・・予想はそんなに大きく外れていなかった、かな?

わたしは、「キケロ、カエサル、アッティクスたちから始まるローマの歴史を、パピルスによって伝えること」を描くのかと予想していましたが、三人に先立つ、400年前、十二表法の制定から今(作中の紀元前82年)に至る、パピルスによって伝えられてきた「法治」の精神に触れていました。

作者さんの言によれば、本作は、いつか描きたいと思っていた「紙に関わる歴史もの」とのことです。

作中現在から未来へだけでなく、過去から現在へそして未来へと続く歴史、その歴史を伝えるパピルスの物語であったと解していいのかな。

◆第1話と第2話を読んだ時には、存在感がやや薄く見えたキケロさんが第3話で主役に成り上がってます。
いえ、あの終わり方(ナレーション)では、第3話のみならず、本作自体が、キケロとアッティクス、二人の物語であったかのよう。

一方、キケロ、アッティクスとともにサブタイトルに名を掲げるカエサルは、通読してみると、なんとも宙ぶらりんな存在です。

知名度は抜群ですし、凛々しい主役顔ですし、リーダーシップを取ってるし、言動がいちいち偉そうなので、出番々々で目立ってますが、終話に当たる3話の締めが、キケロとアッティクスの関わりの強調だったので、カエサルの存在がなんとも宙ぶらりんに。

アッティクスの尽力もあり、キケロの著作のみならず、膨大な書簡も後世に伝わったのは事実ですが、カエサルにもガリア戦記をはじめとする、多くの著作がありました(※)

(※) しかしながら、後継者であるオクタウィアヌスが、カエサルの神格化に伴い、神にふさわしくないとして、「ガリア戦記」と「内乱記」を除く著作を焼却した為、くだんの二作品他のカエサルの著作はキケロその他の著述からうかがうしかありません。

カエサルもまた、パピルスによって、伝えるものを持った人物だったのです。
なんだけど、通読すると、カエサルとテーマの関わりが薄い気がします。

憶測ですが、本来はもっと長い構想があったのではないでしょうか?
スッラ裁判で一区切りつきましたが、この後引き続き、三人の人生を描いていき、その過程で、カエサルが為す業績、即ち、パピルスによって伝えられていくものも、丹念に描かれる予定だったのでは。
それこそ、パピルスにもよって伝えられたきた「共和政」が。

ピッパちゃんや謎の美女の正体は明かされましたが、アッティクスとポンポニア兄妹が有する不思議な力とか、第2話でポンポニアさんの使いが伝えた「重大な要件」のこと、コルネリアとの婚約、スッラの悪行等、放置されたままの設定はいくつもあります。

この憶測が的を射ているのであれば、続刊を願わずにはいられません。

◆第3話、裁判に挑むキケロさんに、ハルシャ王との会見に臨む玄奘(諏訪緑「玄奘西域記」)の姿が重なりました。

ハルシャ王との会見前夜、やや弱気になる玄奘をプーが励ましまず。
「『熱意』や『誠実さ』というものは、古来からあり、今でも通用する説得法のひとつです」と。そして、二人に共通の恩師である正法蔵さまの言葉を伝えます。
「出家の本分は世の人の幸福に役立つことである。人びとに尽くすは故国だけとは限らぬ。一切の利害得失は忘れるべき」

裁判前夜、怪我により弁護に立てなくなったスカエウォラは、自分に代わり裁判に臨むよう、キケロに指示します。今まで弁護士として裁判に臨んだことのなかったキケロは玄奘よりさらに弱気に囚われ、しどろもどろに拒否します。
そんなキケロをスカエウォラは穏やかに諭します。
ネタばれになるのでセリフの引用はしませんが、「出家の本分が世の人の幸福に役立つことである」ならば、「ローマの法は、法治への信頼を持つ人々が支えてきた」でありましょうか。

恩師に説得され、弁護に立つことにしたとはいえ、弱気が去らなず八つ当たりしてくるキケロを、アッティクスも励まします。
プーが玄奘を玄奘たらしめる「熱意」と「誠意」を後押ししたように、アッティクスもキケロをキケロたらしめる「真面目さ」「責任感」「利他の精神」(注.あくまでも「パピルスは神」におけるキケロさんの性分)を後押ししました。

そして、翌日、みごとな弁論で裁判を牽引します。
第1話と第2話での存在感の薄さをくつがえす活躍っぷりでしたw。

◆弱虫キケロを知ってるかい?

実際のところキケロは「逆境にはすこぶる弱い」タイプだったので、裁判前夜のあの弱気っぷりはさもありなん。
そして、アッティクスの長い愚痴の聞き役人生が続くのであった。

◆コロネリアと犬たちが可愛らしかったです。コマは小さかったけど。

◆あとがきまんがのこと。
ネタばらしはしませんが、史実ばれはします。
三人の「理想の女」が、各人の未来の妻(カエサルのみ未来の愛人)の姿に重なり、歴史好きとしてはにまにましてしまいます。

1) カエサルの理想の女 →
たぶん、クレオパトラさんがモデル。

2) アッティクスの理想の女 →
アッティクスはかなり晩婚であったと推測されています。
英語Wikiによれば、紀元前58年(或いは56年)頃、クラッススの孫にあたるカエキリア・ピエラと結婚。アッティクスは当時50歳過ぎ、妻のカエキリアとは35歳くらい離れていました。言わずもがなですが、奥さんの方が年下です。
こんなアッティクスだから、理想の女もああなんだ、きっと・・・。

そして、アッティクスが晩婚になったのは、あれの妨害が原因かいw?

3) キケロの理想の女 →
雄弁家として名高いキケロの妻となった女性テレンティアは、「天性穏和でもなく内気でもなく名誉心の強い女」で、キケロ本人の言によれば「夫と共に一家のことを処理するよりも、その政治的な憂慮に干渉したがる人」でした(共に、「英雄伝」キケロ-20)
なるほど、だから、なよなよした女でもなく、可愛くか弱い女でもなく、「貫録十分」なあの女性が理想のタイプになるのか(笑)。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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