2015年07月31日 (金) | Edit |


Part2  Octavian in the West(40B.C. to 39B.C.)

引き続き出会い編、「オクタウィアヌスの求婚」を紹介します。

「お邪魔してよろしいか?」オクタウィアヌスは極上の笑顔で問いかけました。
「ええ、もちろん」リウィアは息をのむと、最後の涙をぬぐいながら答えました。
「ご遠慮なく!」
オクタウィアヌスはリウィアの足もとに座ると、からかうような表情で彼女を見つめました。面白そうな眼差しは、突然優しいものとなります。
「少しの間、わたしは、貴女を広場の女神だと思いました」
「今はフレゲラエの運命の悲哀を嘆くだけです。貴女は女神ではなかった。けれど、いつの日か、わたしは貴女を女神としてここに称えましょう」
気がおかしいんだわ。彼が理解できず、少々気違いじみていると思いかけた矢先、たちまちのうちに、リウィアは恋に落ちました。

展開はやっ!
ホントに、こうなんですよ。気違いじみていると思いかけた矢先に、”she fell in love”と書いてあるんです。

「少し気晴らしをしたかったんです」喉を締め付けそうな感じで彼女は言いました。
「遺跡を見たくて。遺跡は穏やかです。わたしはずっと平穏を求めています!」最後の言葉には熱情が込もっていました。
「その通りですね。かつて人々は平和のうちに殺戮を終えました。(以下、マリウスとスラの和平の話題になってるみたいだけど、よくわからないので省略)」
「あなたも破壊なさる方ですか?」
「わたしは破壊よりも建設に尽くしたい。けれど、フレゲラエを再建する気はありません。貴女との記念碑ですから」
「ご冗談ばかり。わたしはそんな物に値しませんわ」
「貴女の涙を見たわたしが、冗談を言うとでも?なぜ泣いていらしたんです?」
「自分の悲しみですわ」リウィアは正直に答えました。
「良き妻の答えですね。貴女は良き妻に違いない。そうではありませんか?」
リウィアは、自分の指の簡素な金色の指輪を見つめました。
「そうあろうと努めています。時には、とても難しいですけれど」
「そんなことはありませんよ。わたしが貴女の夫なら。貴女の夫は誰なんですか?」

「わたしが貴女の夫なら」って、もう結婚する気でいるオクタウィアヌスです。
ホントに、展開はやっ!

「ティベリウス・クラウディウス・ネロと申します」
オクタウィアヌスは、声にならない笑いを浮かべ「ああ、彼ですか。貴女は?」
「リウィア・ドルシラです」
「名門ですね。女相続人でもあるのでしょう」
「すでにそんな立場ではありませんわ。持参金も失ってしまいました」
「ご夫君が費やしてしまった、と、そうおっしゃりたいのでは?」
「亡命の後でという意味でしたら、その通りですわ。わたしは、クラウディウス氏族、ネロ家の人間です」
「貴女の夫は一番近い従兄でしたね。お子さんはいらっしゃるのですか?」
「ええ、男の子が一人。4歳になります」
黒いまつげを伏せながら言葉を続けます。見知らぬ人間にここまで言うのは馬鹿げていると思いながら。
「もう一人身ごもっていますの。でも、薬草を使おうかと思っています」
「貴女は、薬草を使いたいのですか」
「イエスでもあり、ノーでもあります」
「なぜイエス?」
「わたしは夫が嫌いですから、長男も嫌いなんです」
「ではなぜノーでもあるんですか?」
「もう二度と子供を授からないような気がするんです。カプアでボナ・デアにもそんな神託を受けました」
「わたしはカプアから来たところですが、あちらで貴女をみませんでしたよ」
「わたしもですわ」
沈黙が落ち、甘やかで穏やかなひと時が流れます。
わたしは魔法にかかったのだと、思いながらリウィアはかすれた声でつぶやきました。
「永遠にここに座っていたいわ」
「わたしもです。けれど、貴女が傍にいる限りです」
彼がリウィアに触れようと動いた時、リウィアは彼をさほど強くない力で押し返しました。
雰囲気は一変し、声が震えています。
「あなたがお召しになっているのは神官のトガ・プラエテクスタではありませんか。けれど、あなたは、神官に選ばれるには、若すぎるわ。ということは、あなたは、オクタウィアヌスの部下なの?」
「わたしは部下ではありません。わたしはカエサルです」
リウィアは飛び上りました。「オクタウィアヌス?あなたがオクタウィアヌス?」
「その名に応えるわけにはいきませんね」怒りなくオクタウィアヌスは言います。
「わたしは神君の息子カエサルであり、やがて、民衆の要請による元老院決議によってカエサル・ロムルスと呼ばれる者。敵を全て倒し、同格の者がいなくなった時に」
「夫は直前まであなたの敵でした」
「ネロが?彼には何の意味もありませんね」
「彼はわたしの夫です。わたしの運命を支配する者です」
「あなたがおっしゃるのは、あなたが彼の財産以上の物ではないという意味ですよ。わたしはネロを知っています。あまりにも多くの男が自分の妻を獣か奴隷のように扱っている。なんと大きな悲しみだ、リウィア。わたしは、妻というものは、男の最も重要な同志であるべきだと思っています。家財道具ではなく」
「あなたはご自分の奥さまに、そう接しておられますの?」
リウィアが問うと、オクタウィアヌスは急に立ち上がりました。
「今の妻に対してはそうしていません。彼女は知性に乏しい気の毒な女なのでね」
トーガの乱れを直しながら、オクタウィアヌスは言いました。
「わたしは行かなければなりません、リウィア」
「わたしもですわ、カエサル」
宿屋に続く分かれ道まで来ると、オクタウィアヌスはリウィアに告げました。
「わたしは今から遠方のガリアに行きますが、冬が深くなるまでに帰ってきます。そして、帰ってきたら、リウィア、貴女と結婚します」
「わたしはもう結婚しています。わたしは自分の義務に忠実でいなければなりません」
リウィアは厳かに答えました。
「わたしはセルウィーリアではありませんわ、カエサル。わたしは、あなたの為であっても結婚の誓いを破るわけにはいかないのです」
リウィアの言葉を背に、振り返らずに、けれど十分に届く声でオクタウィアヌスは答えます。
「それこそが、わたしが貴女と結婚する理由です」
道を進みながら、オクタウィアヌスは考えます。
「ネロはわたしのような男と結婚させる為に、妻を離縁することはしないだろう。なんておぞましい状況だ。さて、どうやって解決したものか?」

◆出会いの後、「幕間・リウィア編」。

見えなくなるまで、リウィアはオクタウィアヌスの後姿をじっと見つめていました。
足を動かすことも忘れるほどに。
カエサル・オクタウィアヌス!もちろん馬鹿げている、オクタウィアヌスは、思いがけなく出会った、若いきれいな女に同じことを口にしているのだろうと、彼女は思います。
なぜなら、権力は男の欲望を増長させる。現にアントニウスだって、リウィアにあからさまに関心を示していたではないか。唯一の難点は、リウィアがアントニウスには反感しか持てなかったことだった。
けれど、わたしはアントニウスの敵には恋してしまった。一目で、そして、その恋を失った。

この後、ボナ・デア神殿での出来事の回想に入ります。
蛇に捧げものをし、なんらかの神託を受けたけれど、思い出そうとすると、記憶に霧がかかったようになってしまい、どうしても思い出せないようです。
なかなか幻想的な回想のようですが、わかりにくいので、端折りまして、リウィアの祈りで結びます。

ボナ・デア、世界をわたしにくださるのであれば、男が侵入する以前の、あなたへの崇拝を復興させてみせます!

けれど、宿に戻ると現実が。
夫のクラ・ネロさんから、極めて不機嫌な出迎えを受けます。
「どこまで行っていた、リウィア。今日は街道が人で混み合っていたとでも言うのか?」
「フラゲラエの遺跡で男の方とお話をしたのです」
「妻というものは、見知らぬ男と口をきくものじゃない!」
「見知らぬ男ではありませんわ。神君カエサルのご子息でした」
途端に、ネロさんの口から流れでるオクタウィアヌスへの罵詈雑言。
リウィアは冷え切った体を風呂で温めたいと言いおいて、その場を逃れました。
ところが、風呂場に来てみると、浴槽には垢が浮き、悪臭が漂っています。おそらくネロが、たぶん幼いティベリウスもここで放尿したのでしょう。
ぬるいお湯に身を沈める前に、できる限り垢やごみを掬いました。
今ここで、彼女がかつて使っていた大理石のバスタブを、新鮮で熱くて良い香りのお湯とともに提供してくれる男性がいたら、妻の美徳など捨ててもいい、と、リウィアは思います。
そして、放尿のことも、ごみや垢のことも心から追い出し、その男性がカエサル・オクタウィアヌスであれば、彼が本気で言ったのであればと、夢見るのでした。

◆出会いの後、「幕間・オクタウィアヌス編」。

リウィアが汚れたぬるま湯に身をひたしていた頃、オクタウィアヌスは、生れてはじめての恋に心を躍らせていました。

彼の言ったことは全て本気でした。

まず、自分自身の恋の始まりに対する不器用極まりなさを批判しており、「心を躍らせている」だけでなく、自嘲あり、興奮あり、苦悩ありと、かなり錯綜とした感情の渦が起きています。

オクタウィアヌスは、神をも恐れぬことをした時、何が起こったのだ?と、皮肉っぽく笑いながら自問しました。
わたしは、大げさに涙ぐむ感傷的なものを軽蔑してきた。
一目でキューピッドの矢に射られたと断言する男を軟弱な者だとみなしてきた。
けれど、わたしは、海よりも深い、今まで知らなかった女への恋の矢が、わたしの胸を貫くことを許している。
わたしが今まで信じてきた、理性と客観性が、すべて圧倒されてしまいそうなこの感情が信じられるのか?
わたしは理性を失っていない。客観性も失っていない。
だからこそ、この信じがたい情動(恋、恋なのか?)が、何ゆえなのかを知らなければならない。
彼女は、わたしを我慢できないほどに突き動かす!
彼女が負う苦難をわたしが全て引き受けてやりたい。
彼女の全身に口づけたい。
残る人生の全てを、リウィア、彼女と共にありたい!

リウィアの顔が、オクタウィアヌスの眼前で踊り、気が狂いそうでした。
一筋の縞もようの入った瞳、黒い髪、ミルクのような肌、艶やかで紅い唇。
これは性的衝動というものか?アントニウスを年がら年中、悩ませているあの病と同じものか?
違う、そんなものではない!この病的な情動がなんであれ、男の下半身を疼かせる以上の尊い理由があるはずだ。(露骨な表現ですが、該当箇所は原文では”penile itch”なので)

ローマへの帰路、馬車に揺られながらオクタウィアヌスは考えます。
わたしたちは、生まれついての一対(”each of us a natural mate”)であり、わたしは、わたしのものを見出した。さながら鴛鴦のように(意訳です。原文では”Like turtledoves”)。
別の男の妻であり、彼の子供を身ごもっている。そこに何の違いがある。彼女はわたしのものだ、わたしのものだ!

“She belongs to me!”と宣言したところで、次回は、それぞれの離婚に続く。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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コメント
この記事へのコメント
どもども!おひさしぶりです!
どもども!お久しぶりです!
オクタウィアヌスの求婚、楽しく拝読させていただきました。
それにしても、何とロマンティックで本当に展開が早いです~。今までドラマや映画とかで描かれていた二人の出会いなどは、どちらかと言えば奇怪な感じがしててロマンスなんか微塵も感じられませんでしたから。とくに「ROME」の二人は何ともSとMか!?ってな感じで。70年代に放映されたBBCドラマ「この私、クラウディウス」でのオクタウィアヌスは、ジャイアン風格でお人好しのまんま、コブラのような風貌のリウィア様に毒殺されてしまいますし。何だって、こんなに西洋ではこの二人のロマンスを描かないんだろう?って思っておりました。

ですので、遺跡のくだりはとっても良かったです!平穏を求める母性とでも言えましょうか。偶然なのですが、紺青のユリでもリウィア様が幼いアグリッピナに、石像を例えに耐えることを伝えるくだりを書きました。創作者としてこういった同じ感覚で表現できるって、本当に嬉しいです。

オクタウィアヌスとリウィア様の二人の会話には、こっちがメロメロと蕩けてしまいそうです。

"「永遠にここに座っていたいわ」
「わたしもです。けれど、貴女が傍にいる限りです」"

いやーーーー!!こんなセリフはイタリア人辺りなら絶対にいいそうです!

"「さて、どうやって解決したものか?」"

ここら辺が、策略家オクタウィアヌスの本領発揮でしょうか。でも、この時点でネロ・クラウディウスはほとんど立場的に弱くなっていると思いますので、なんだかオクタウィアヌスの余裕な構えさえ感じます。

"夫のクラ・ネロさんから、極めて不機嫌な出迎えを受けます。"

夫がありながら別の男性に恋をしてしまった妻という立場は、とかく夫をこういう風に見がちですよね。僕もアグリッピナとグナエウスの悪い夫婦仲を描く際に、不倫を経験した知人の女性から話を聞いたのですが、彼女たちは、皆、「夫とは一緒の風呂にも入りたくないし、何もかも別世界にいる気がして気持ち悪い」と言ってました。と、同時に、「後で考えてみたら、夫と同じ意見になってしまえば情が出てしまうから、敢えて否定したり夫を悪者にしないと自分の不貞を正当化できないのかも」と反省もしていました。

"彼女が負う苦難をわたしが全て引き受けてやりたい。"

男は常に自分が世界の中心にいると思い込んでいるので、わき役なんて考えられないんすよね。だから、好きな女性に本気で恋をしてしまうと、自分の器を考えずにのめりこんでしまいます。しかも勝手に、相手は不幸なんだ!僕がいないとダメなんだ!と。世界共通の意識です。

"男の下半身を疼かせる以上の尊い理由があるはずだ。"

下半身を疼かせる本能と尊い理由に苦悩するのは、これは男の子の永遠のテーマですね(笑)結局、どちらも大切な部分なのでしょうけど。一昔前の、優しいだけじゃダメ、強いだけでもダメと男性を翻弄させる女性に苦悩する感じですかね。それにしても、最近の若い女性は、「強くなくていいから、優しくあってほしい」と結構思っている人が多いみたいです。もちろん"強さ"には、肉体的な強さや精神的な強さの意味でなく、"傲慢"や"自分勝手"の意味が入ってきているのでしょうけど。言い争いなんかしたくないから、穏やかに過ごしたいと思っている人が多く、価値観も時代によって随分変わってくるのかもしれませんね。

“She belongs to me!”と宣言したところで、次回は、それぞれの離婚に続く。

結婚する気満々で思い出したんですが、典型的なイタリア人と女性の話をすると、必ず「恋に落ちた!」「彼女は俺の愛だ!」とすぐに言っちゃうんですよ。ちなみに南イタリア人は女性の口説きでは、本気で戦いモードに入ります。闘争本能に火が付くのでしょうか?本気でした!
2015/08/18(Tue) 14:53 | URL  | Josh #r13xZNus[ 編集]
Re: どもども!おひさしぶりです!
>Joshさま

こんばんは。ご感想ありがとうございます。
「Antony and Cleopatra」は、リウィア&オクタにも思い入れたっぷりに筆を費やしてくれていてありがたいです。
Colleen McCulloughさんは美形大好らしく、美男美女描写にもリキ入ってますし。

> "「永遠にここに座っていたいわ」
> 「わたしもです。けれど、貴女が傍にいる限りです」"
>
> いやーーーー!!こんなセリフはイタリア人辺りなら絶対にいいそうです!

普段ローマ人と認識してますが、一応、オクタウィアヌスも「イタリア人」の祖だから、女への口説き文句はおてのもの(笑)!?

> ここら辺が、策略家オクタウィアヌスの本領発揮でしょうか。でも、この時点でネロ・クラウディウスはほとんど立場的に弱くなっていると思いますので、なんだかオクタウィアヌスの余裕な構えさえ感じます。

ネタばれになりますが、あんまりトラブルもなく、言ってみれば慰謝料代わりの金銭であっさり解決ってとこです。

> 夫がありながら別の男性に恋をしてしまった妻という立場は、とかく夫をこういう風に見がちですよね。

おおお、これは未知の世界、未知の見解だ!
なるほど、クラ・ネロさんがひどい夫であることは間違いないけれど、妻の側の主観(自分が不倫している弱味)ってのも大きいのですね。

> "彼女が負う苦難をわたしが全て引き受けてやりたい。"
>
> 男は常に自分が世界の中心にいると思い込んでいるので、わき役なんて考えられないんすよね。だから、好きな女性に本気で恋をしてしまうと、自分の器を考えずにのめりこんでしまいます。しかも勝手に、相手は不幸なんだ!僕がいないとダメなんだ!と。世界共通の意識です。

ふむふむ、「眠り姫の為に艱難辛苦を乗り越える王子様の心境」ってとこですか。
女にシンデレラ・コンプレックスがあるなら、男にはプリンス・チャーミング・コンプレックスとでも。
しかし、不幸と決めつけられるのはちと重いですな。

> 下半身を疼かせる本能と尊い理由に苦悩するのは、これは男の子の永遠のテーマですね(笑)結局、どちらも大切な部分なのでしょうけど。

うちの親あたりの世代の男性を見てると、普通に過ごしていても、女性に声を荒げたり、ふるまいが威圧的で乱暴だなと思う事があるので、「穏やかに過ごしたい」との希望もわかる気がします。

> 結婚する気満々で思い出したんですが、典型的なイタリア人と女性の話をすると、必ず「恋に落ちた!」「彼女は俺の愛だ!」とすぐに言っちゃうんですよ。ちなみに南イタリア人は女性の口説きでは、本気で戦いモードに入ります。闘争本能に火が付くのでしょうか?本気でした!

「I LOVE YOU」を「月がきれいですね」と訳したとの俗説を聞いたことがありますが、こういう日本的な感覚からはかけ離れたイタリアンwww
2015/08/19(Wed) 20:40 | URL  | サラ #ndrEhoxc[ 編集]
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