2015年09月03日 (木) | Edit |

里中満智子「トロイの木馬 マンガ・ギリシア神話」

◆内水融さんの「アグリッパ-Agrippa-」第5話冒頭では「イーリアス」の一節が読み上げられています。


内水融「アグリッパ-Agrippa-」2巻に収録

アキレウスの親友であるパトロクロスの死を悼む一節です。
オクタウィウスが登場した回の冒頭に、パトロクロスがさりげなく投入されるなんて、今後、「友情」もモチーフになさるのかと期待しちゃいました(笑)。
まあ、タラニスとオクタビが出会ったところで終わってしまいましたが。

さて、里中満智子さんによる、「マンガ ギリシア神話」。

パトロクロスとアキレウスの友誼とその死の描写を楽しみに読み進めました。
楽しみに読み進めましたとも。
しかし。
たしかにパトロクロスは登場しました。
登場しましたとも。
でも、「カットするわけにはいかんから出しました~」的な扱いでした(泣)。
さながら、「江 姫たちの戦国」における前田利家のよう・・・。

アキレウスとパトロクロスとの「友情」よりも、アキレウスとアマゾン族の女王ペンテシレイアとの「愛」の描写に力が入っておられます。

アキレウス、ペンテシレイアと刃を交える。
 ↓
(中略)
 ↓
プロポーズ
 ↓
ペンテシレイアご臨終
 ↓
アキレウス、絶命したペンテシレイアに口づける。

以上、全て、戦場での短時間に起こった出来事です。
口づけの場面では、遠くに戦いの真っ最中の兵士たちが見えますよ。シュールな光景です。

なんともはや、「愛」をテーマに描き続ける、里中さんらしい展開でした。

◆少女まんがでは美形がデフォなのでしかと認識しておりませんでしたが、オリンポス十二神が美形ぞろいです。
ディオニュソスの妖しい美しさはいったい何事!?と言いたいレベル(ほんと、無駄に美形すぎw)
ヘルメスも狡猾な感じの美青年です。
爺さんで表現されることの多いポセイドンもこれまた凛々しい青年の姿だし。
美男美女が乱れとぶオリンポス十二神でございますよ。

しかしがら、美形揃いのなかでヘパイストスが、容姿の点で劣り、劣等感満載のひきこもりの閉鎖的な性格の人物設定であったのが残念です。

一方的に否定的に見るのも申し訳ないので、ヘパイストスの人物造形について里中さんのご意見を知る機会があればいいなと思います。

◆ところどころ、里中さん独自の解釈がある、と思うのですが、しかと断定できないのがもどかしい。

アルテミスが硬派、もとい、処女神として生きる決意を固めた動機づけは、里中さんの解釈なのでしょうか・・・?
すごく筋が通っていて納得できました。凛々しくて素敵です、アルテミス。

「母上は父上を素直に受け入れたため、苦難の出産を強いられた。
父上は母上を抱く事には熱心でも、苦しむ母上を助ける誠実さに欠けていた。
男の愛なんて身勝手なものなのよ。
私は一生どんな男にも体を許さない!」
(里中満智子「ギリシア神話」1巻より引用)



◆メディアが恋したイアソンが、際立った英雄ぽくなくて意外でした。
メディアのキャラクターが強烈なので、男が大人しめになったのかしら。
強烈な個性の持ち主が平凡な人間に恋することも、リアリティある展開ですし。
でもやっぱり意外でした。

◆性描写について。


「マンガ ローマ帝国の歴史」
まんが:さかもと未明
監修:小堀磬子


さかもと未明さんの「ローマ帝国の歴史」は、タイトル負けといいますが、、カエサルに始まるユリウス・クラウディウス朝の興亡を描きネロで終わる、JAROに訴えちゃいやんな内容(笑)。

なにかと話題になるネロやカリギュラだけでなく、意外と主役登場の少ないカエサルの青年時代から描きお起し、地味なアウグストゥスとティベリウスの治世にもきちんとページを割いてくれていて、良質の学習漫画と思うのですが、読者が受け入れるネックになりそうなのが性描写。

おそらく大人読者対象の本なので、性描写があってもいいと思います。
特にユリアの乱交を、父に愛されず、子供を産む道具扱いされ続けたことへの代償行為のように描いたのはいい着眼ですが、性場面の描きようが露骨です。
露骨なので、具体的に説明できません。察して下さい。

わたしは気にしませんよ、わたしは。

「性」の露骨さも当時のローマでは普通だったろうし。
ただ内容がいいだけに、性描写の露骨さで「ポ×ノまがい」と嫌ったり、見下したりする人がいるんじゃないかとの懸念が頭をかすめます。

古代ローマ本なだけに、しかもクレオパトラがメインじゃないユリ・クラ朝ものだけに、広く受け入れられる作りにしてほしかったなと思います。

さて、ここで比較するは、里中満智子さん作画のマンガ「ギリシア神話」。
ギリシア神話から題材をとっているだけに、同性愛・異性愛のセックスあり、強姦もありなのですが、露骨にならないよう描いておられます。

夫婦、恋人間の性行為は、服を着たまま寝台(寝椅子)で抱き合う描写で済ませるか、裸体にするなら肩から下はベタ塗りで隠す、強姦であれば直接描かず、犯行後に乱れた着衣でうちしおれる被害者をクローズアップするという形で表現しています。

どっちがいい、悪いとは優劣はつけられませんが、マンガ「ローマ帝国の歴史」は露骨な性描写で損をしている気がします。

◆里中満智子さん、すっかり教養系まんがの執筆に専念されておられるようですが、「マンガ 古代ローマ史」なんてオファーはないのかしら。
「ユリ・クラ朝の歴史」限定でもいいんだけどな。むしろ歓迎♪
里中さんの絵と解釈で、オクタビとリウィアの出会いから婚礼までを是非読んでみたいものです。
里中さんご自身はエジプトがお好きらしいので、クレオパトラに力が入りそうですが。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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コメント
この記事へのコメント
阿刀田高化
 里中さん、『天上の虹』完結して、ほかの一般マンガは描く機会があるのでしょうかね。企画もの続きですよね。小説家阿刀田高氏の『~~を知っていますか』がギリシア神話を始めとしていろいろ出ていて、そのうち、ギリシア神話、聖書、古事記を里中さんも手掛けたので、阿刀田化してる~と面白がっています。ではシェイクスピアもよさそうです。もちろん、『アントニーとクレオパトラ』を狙っているのです。児童書でシェイクスピア作品のイラスト担当はすでにありましたね。
2015/09/04(Fri) 09:04 | URL  | 真奈美あるいはレーヌス #t1rTeCTA[ 編集]
Re: 阿刀田高化
>真奈美さま

こんばんは。
「天上の虹」も、企画ものでこそなけれ、作者の史実への誠意ゆえに、ほぼ教養まんがと化してました。

阿刀田高化との言い回し、面白いです。
すっかり教養まんがを描く方とのイメージがついてますし、なかなか一般向け作品を描く機会にはめぐまれないのではないでしょうか。

>ではシェイクスピアもよさそうです。もちろん、『アントニーとクレオパトラ』を狙っているのです。

里中さんがイラストを担当なさった児童書版シェイクスピアでは、「ジュリアス・シーザー」はあっても、「アントニーとクレオパトラ」はなかったですね。残念。
しかし「ジュリアス・シーザー」でのオクタウィアヌスは、アントニウスより男ぶりが劣っていたので、「アントニーとクレオパトラ」が実現しなくてよかったかも。

まんが作品として、本格的にシェイクスピアに取り組む機会があれば、オクタウィアヌスの容姿の改善があることを期待します。
2015/09/04(Fri) 20:29 | URL  | サラ #ndrEhoxc[ 編集]
No title
里中満智子さんは『クレオパトラ』自体は漫画化してますよね?
読んだのが大分昔だし、書籍も手元にないので正確ではありませんが、オクタヴィアヌスは金髪の美青年だし、オクタヴィアヌスは自分の姉を苦しめた相手でも憎めず、クレオパトラに助けの手を差し伸べようとしていたけれど、クレオパトラは女王の誇りをもって命を絶つラストだったような……。
うろ覚えでごめんなさい。

かしこ
2015/09/14(Mon) 20:34 | URL  | 名取の姫小松 #-[ 編集]
>名取の姫小松さま

> 里中満智子さんは『クレオパトラ』自体は漫画化してますよね?

はいはい、これは文庫で持ってます。
以前感想を書いたので、自ブログを検索したんですが、どうやら過去分を整理した時に、取り下げてました。
そのうちまた「再録」するかも。

> 読んだのが大分昔だし、書籍も手元にないので正確ではありませんが、オクタヴィアヌスは金髪の美青年だし、オクタヴィアヌスは自分の姉を苦しめた相手でも憎めず、クレオパトラに助けの手を差し伸べようとしていたけれど、クレオパトラは女王の誇りをもって命を絶つラストだったような……。

そんな感じです。
オクタウィアヌスがクレオパトラの気高さ、民を思う優しさにうたれ、求婚するも、クレオパトラは史実通り自害するラストです。

少女まんがらしい脚色と、随所に作者さんがよく調べておられるなと、ニヤリとできる箇所が垣間見え、わたしは好きな作品です。
2015/09/15(Tue) 21:11 | URL  | サラ #ndrEhoxc[ 編集]
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