2015年10月08日 (木) | Edit |

「日出処の天子」
作者:山岸凉子


雄麻呂は実在の人物でありますが、「日出処の天子」(山岸凉子著)(以下「処天」)に登場する雄麻呂について語ります。
以下、すべて史実ではなく、「処天」に基づいて語っています。

「処天」界の雄麻呂は、蘇我蝦夷の従弟で、小物で、ちょっと小ずるそうな青年ですが、なかなかどうして立派なやつと言えます。

なぜなら、強姦の被害に遭った女性を「疵もの」として蔑ろにせず、かつ、見下したりもしなかったから。
それが当たり前なんだ。当たり前なんだけど・・・。

蘇我蝦夷の妹に刀自古という女性がいまして、戦乱のさなか、敵対する物部氏の下人たちによって、腹いせの輪姦被害を受け、身体はもとより、心にも大きな傷を負いました。
雄麻呂は彼女のことが好きで、必死にくどくのですが、刀自古は受け入れません。
かたくなな刀自古に焦った雄麻呂は致命的な一言を吐いてしまいました。

「俺なら、お前の疵など気にもしない!」



・・・、え?
そんな言葉を口にするなんて最低の男じゃないかって?

はい、最低です。
最低なんですが、雄麻呂は即我にかえり、言ってはならない事を口にしてしまったと、悔やんでいるんですよ。

「なんてバカなんだ俺は。言うに事欠いて…」



浅はかな奴ですが、いい奴だと思います。
本気で「疵ものをもらってやろうと言ってるのに!」と、自分の「善意」を疑わない、善意の魔人、略して善魔というべき、不愉快極まりない男も存在しますから。
当然ながら、悪意でもって「疵物だからおれがやってもいいだろう」と、徹底的に見下してかかる男もいます。

また、刀自古の母なんて、娘の前で娘の被害を「醜聞」と口にしていながら、刀自古を傷つけたことに全然、思い至らないのですから。

刀自古は、後に、厩戸皇子と結婚するのですが、その披露宴での雄麻呂の態度も立派と言っていいものでした。
酒が入った勢いで、厩戸皇子に刀自古をかっさらわれた事を愚痴るのみでしたから。

「俺の方が、ずーーーと昔っから、あのはねっかえりを好きだったんだからな!」



下種な男なら、いえ、普通の男性でも、自分をふった女が結婚すると聞けば、しかも自分よりスペックが上の男とであれば、そして、その女の「過去」を知っていれば、負け惜しみに「下郎にさんざんなぶりものにされた疵もんをもらって、厩戸皇子もいい面の皮さ」と心中で悪態をつくところでしょう。

かのイシュトバーン(栗本薫著「グイン・サーガ」)は、別れた恋人リンダの結婚式の日、
「リンダだってその気になってたんだから、一発やってりゃよかった。そうすれば、あんた(アルド・ナリス)が結婚する相手は俺のお古だぜと、ナリス様を見下してやることができたのに」(意訳)と、胸中で下品な悪態をついています。
この件で、わたしの中のイシュトバーン株は0円に下落してそのままです。
て言うか、もう読んでないなんだけどね、「グイン・サーガ」。

以上の点から、わたしは「処天」の雄麻呂くんをいいやつだと思っています。

 
「武則天」
作者:原百代


中宗は、唐の第4代皇帝です(在位:683年― 684年、705年―710年)。
大著「武則天」の作者、原百代氏によると次のような人物です。

中宗は幼少時から特に学に秀でたというわけでもなく、さりとて武芸に巧みではない。容貌態度も別に人並み以上ではなく、(中略)なんとも冴えぬ人物である。
凡庸でも温厚ならまだよいのだが、中宗は浅慮粗暴、単純で、つまらぬところに虚栄を張る癖があったらしい。



身も蓋もない言われようです。

最初の登極時には、わずかに44日の在位で玉座から引きずりおろされました。
「俺は天子だぞ。妻の父親に天下を丸ごと与えることだってできるんだぞ!」と暴言を吐いたことが原因で。
二度目の即位後は、嫁と娘に首根っこを押さえつけられ、政治の壟断、苛斂誅求、酒池肉林を欲しいままにさせ、挙句、妻子によって毒殺された、だめんず臭のただよう人です。

このだめんずにいい所なんてあるの?
あります。
奥さんを大事にしたことです。

最初に帝位から転がり落ちた後返り咲くまで、中宗は家族ともども、事実上の幽閉生活を送っていました。
元・皇帝とはいえ、いつなんどき、「賜死」の勅命がもたらされるかわからない、明日のみえない明け暮れに、中宗はすっかり弱気になりました。
そんな中宗の心の支えは、気丈な妻の韋氏でした。

「禍福常なしと申すではありませんか。じっと我慢して過ごしておれば、そのうちにはまた良いこともありましょう。先のことは誰にもわからないものです。明日にでもご赦免が出ないとは限らぬでしょう。
(中略)
将来、必ず運が開けてくると信じてできるだけ晴れやかに過ごそうではありませんか」



妻の健気さに感じ入った中宗は、感激と感謝とともにひとつの約束を口にしました。

「万一にも将来、運が開けたとしたら、それはみなそなたの励ましのおかげだ。そういう日が訪れたならば、そなたの望みは何なりと聞き届けてつかわすぞ。必ずともに忘れはせぬわ」



復位の後、中宗は、「忘れぬ」と感謝した妻・韋氏への約束をたがえる事はありませんでした。
つらい幽閉時代を支えてくれ、そして、苦労をかけた妻に報いるため、彼女の望みをことごとく受け入れ、かなえてやりました。
しかしながら、それは後世「韋后の禍」と呼ばれる政治の紊乱と混乱を招くものでありましたが。

いい人じゃないですか!
当然といえば当然ですが、なかなかできることじゃないですよ。
出世したとたんに、苦しい時代を支えてくれた奥さんを捨てて、ナイスバディの若い美人に乗り換える「成功者」なんて珍しくないのに。

ああ、それなのに・・・。
幽閉生活中、優柔不断にうろたえるばかりの夫の姿を見続けた妻の心から、愛情はすでに枯れ果てていました。

「皇帝」であること以外、なんら魅力を持たない夫を見限り、さらなる権力の掌握を目指した韋氏と娘を中心として謀反人たちによって、中宗は毒殺されたのでした。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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