2016年02月24日 (水) | Edit |
◆オクタウィアお姉さまの人柄は不明です。

下記に引用するのは、レーヌスさまと、とあるまんがについて話してて、いただいたコメントです。
外部リンク:「レーヌスのさざめき」

ドラマ『ローマ』のオクタヴィアの場合、なんといっても、きれいな女優の起用で、性格は悪くない設定でしたし、この違いは大きいです。「貞淑」とはまるっきり言えないですが。 セレネたちをひきとったのはオクタの政治的意図にしても、まあオクタヴィアもあの子たちにはよくしてやったのではと想像できます。



わたしは、HBOドラマ「ROME」のオクタウィアを、アティアほどではないけれど、性悪の部類と思って見ていたので、あれ?と戸惑ったコメントです。

が、コメントでの指摘を念頭に思い返せば、たしかに「ROME」版のオクタウィアは「性格は悪くない」
弟相手にポンポン高飛車な物言いをすることもあったけれど、第1話、護衛がつくとはいえ、一人ガリアに旅立つ弟を親身に心配していた弟思いの心根は終盤まで変わりませんでした。

また、恋愛も奔放に見えて、母のように情事の相手をつまみぐいすることなく、いっときに一人を相手にし、都度真剣でした。

わたしはどうして、HBOドラマ「ROME]版のオクタウィアを「やや奔放で、弟に対して高飛車で、『立派』とも『貞女』とも言い難い人物設定」だと思い込み、「性格は悪くない」面に目が向かなかったか?
おそらく、いろんな物語で、ひらたく言えば、多くのクレオパトラもので繰り返された、「貞女オクタウィア」の人物像が刷り込まれていたからだと思います。

反感を抱きつつも、目を通した冊数が多い分、「カエサルはカエサリオンの実父」説だけでなく、知らず知らずものうちに、クレオパトラものにおける「貞女オクタウィア」設定を受け入れていておりました。

パトものでは、「自立し、男と対等に愛し合える女」クレオパトラとの対比の為か、「政略結婚を唯々諾々と受け入れ、弟や夫に従う以外に能の無い、自主性がなく、つつましやかで、控えめなことと美貌だけが取り柄の女」と設定されることの多いオクタウィアさまです。

したがって、オクタウィアは「淑やかで控えめな滅私奉公型貞妻」とのイメージが、自分の脳内に形作られていたのでしょう。

しかしです。

暴君、必ずしも暴力男ではないように、「女の模範」、必ずしも、「大人しい、控えめ、従順」とは限らないのです。

アントニウスのご母堂は、「もっとも高貴かつ貞淑な婦人たちと名声を競っていた」と言われます。だから、「貞淑」な女性であったのでしょう。
しかし、「英雄伝」に残されるエピソードからは、けっして「従順」なだけではない、むしろ殺気立った男が相手でも一歩も引かない気丈な人柄がうかがえます。

関連エントリ:【アントニウスと母】(いったんお蔵入りの為リンク解除)

であれば、クレオパトラもので繰り返された、「夫が西を向いていろと命じたら、1年中でも西を向いている女」のようなオクタウィアお姉さまもたんなる創作上のイメージにすぎないと言えましょう。

たしかにオクタウィアお姉さまには、アントニウスの母のような、「気丈」を示すエピソードはありません。

しかし、「夫の愛を得て、オクタウィアヌスとアントニウスの和解の要」となることを期待された彼女が、また要所々々で弟と夫の仲立ちとして動いた彼女が、「男に従うだけの女」であったとは思えません。

当時の「政略結婚」の意味とともに、彼女の果たした役割ももっと見直していきたく思います。
そうすれば、パトちゃんものに汚染されない、彼女の「人となり」も感じ取れるでしょう。

◆貞節は武器になる(オクタウィアお姉さまについて)。

「シャルトル公爵」シリーズ(名香智子著)みたいなタイトルですが、話題はオクタウィアお姉さまの貞女っぷりについてです。

戦争の援助品を持参したのに、政治的事情が絡んだうえ、クレオパトラの虜となった夫のアントニウスから、つれなくされ、会ってももらえなかったオクタウィアお姉さま。
激怒した弟が勧める、独立にも耳を貸さず、夫の家にとどまったまま、妻として振る舞い続けます。

我が子、継子を分け隔てなく育て、アントニウスの友人の訪問を歓迎し、弟への面会も取り持ちました。

しかもそれらの事柄から、自分では欲っしもしないのにアントニウスが不利な結果を招くようになったのは、これ程立派な妻を辱める男だと憎まれたからである。
(プルタルコス「英雄伝」アントニウス-54より引用)



プルさんは、オクタウィアお姉さまには、アントニウスの不利になるよう動く気持ちはなかったと判断しています。
しかしながら、わたしの解釈を述べますと、「オクタウィアは知っていた。自分が夫に尽くす振る舞いが、アントニウスの悪評を招くと知っていた。知っていたからこそ、不貞な夫に懲罰を与える為、自分の貞節を武器とした」。



突然ですが、佐伯かよのさんの「芙蓉の庭」です。

あらすじを簡単に述べますと・・・。

自由立憲党(自立党)に属する政治家、須藤健一の妻、蓉子が身を置く政界の裏は、金と欲と性の入り乱れる場でした。
本作の政界遊泳術は、夫婦交換(スワッピング)。
「妻は夫の命にもかえがたいほどの大事な宝である。その宝を贈ってもご奉公したいと願う人なら、上に忠であることは明らかだ」との理屈によって、政治家が誼を通じて協力しあう為に、スワッピングがまかり通っていました。

蓉子は、ある日、夫から、アメリカの実力者とのスワッピングを命令されました。夫が次期通産大臣の椅子を手に入れる為に。しかし、夫にしか体を許したことのない彼女は、その言葉に傷つき、怒ります。
拒否の声をあげますが、「生娘でもあるまいに!」と、声をあらげた夫にぶたれ、自分の無力を思い知った蓉子は策略を用いました。

スワッピングの場に臨み、アメリカの実力者に睡眠薬を盛り、事は成ったと思わせて、自分の貞操を守ったのです。

夫の為に?
いいえ、「貞節」を夫の喉元につきつける武器とする為に。

帰りの車中、スワッピング、すなわち、アメリカ実力者夫人との交合を済ませた夫に、顛末を説明した蓉子は釘を刺します。
「私にとって男性はいまだあなただけ。このこと、とくとお忘れなきよう」

ここで、煙草を持つ夫の手がクローズアップされ、震えていることがわかります。
この震えはおそらく、妻への「怯え」でしょう。
やがては総理をも目指す男が、「貞節」の剣を喉元に突きつけられ、恐怖に震えたのです。



性の規範が男女非対称であるこの世界において、「貞節」は、女性を縛っています。
しかし、蓉子のように、「貞節」を守った場合、「貞節」は男を斃す武器ともなります。
とくに、男の側が、女の「貞節」を踏みにじった、あるいは、踏みにじろうとした場合は。

蓉子の夫が、妻にスワッピングに応じるように命令したように。
アントニウスが、クレオパトラに溺れ、正当に結婚したローマ人の妻を蔑ろにしたように。

フルウィアが、己の気性にふさわしく、干戈をを以て、アントニウスを罰しようとしたように、オクタウィアお姉さまもまた、己の気性にふさわしく、「貞女」を武器として、アントニウスの喉元に突きつけたのだと思うのです。

オクタウィアお姉さま、貴女は本当は、自分の「貞女」の振る舞いが、アントニウスにとって不利な結果となることを予測していたのではないですか?

しかもそれらの事柄から、自分では欲っしもしないのにアントニウスが不利な結果を招くようになったのは、これ程立派な妻を辱める男だと憎まれたからである。
(プルタルコス「英雄伝」アントニウス-54より引用)



しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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