2016年03月30日 (水) | Edit |
究極の大和撫子妻とはどんな妻?

始終へりくだり、夫に敬語で接してくれる妻?

夫が浮気したら、夫を浮気に走らせたわたしに非があります、申し訳ありませんと、反省する妻?
(誤解のないよう念のため書き添えます。「夫に反省させる」のではなく、「自分が反省する妻」ですよ。)

男を脅かさない程度に賢くて、可愛くて、フルタイムで働きながら、子どもを三人くらい産んで、家事も育児も全て一人でてきぱきこなし、母になっても「夫を魅惑する女」であり続け、さらには夫の親の介護もばっちりこなす妻?(これ、「大和撫子妻」とちゃう、「サイボーグ奴隷嫁」や)

ノン、ノン、ノン!!!

究極の大和撫子妻とは、

夫が死ねと命じたら、その場で死んでみせることのできる妻だあーーーーー!!!

これが出来ん女に、大和撫子妻を名乗る資格はない。


「べんがら格子の家」1巻
作者:神坂智子


この巻の主人公である、柾木登の妻、静さんがまさに、究極の大和撫子妻でした。

時は大正初期。
「封建時代そのままを引きずった生家で、良家に嫁ぐためだけに教育された娘であった」静さんは、元の名を「お限」と言いました。
婚礼の日、「お限は縁起が悪い。女は静かなのがいいんだ、お静に変えろ」との、夫、登の命令に淡々と従い、名を「お静」に変えたのです。
「ご主人様のよろしいように。今日からお静になります」
あまりの従順さに、命じた登はむしろ戸惑いました。「いいのか?」と問う夫に、お静さんは答えます。

「はい、ここに参ります時に、わたしの両親に言い渡されております。
嫁というものは、ご主人様に死ねと言われれば、その場で死んでみせるものだと。
お静は今日からそのつもりでご主人様にお仕えいたします」



お限、改めお静さんは従順なだけが取り柄の妻ではありませんでした。
茶、華、書はもちろん、絵を描き、歌も詠み、和裁をこなし、芝居にも精通した才女でした。そして、夫の危機には命を懸けて盾にもなる女性でした。

しかしながら、これほどに素晴らしい女性であったのに、お静さんの一生は「めでたし、めでたし」では終わりませんでた。

悲劇の芽は、夫がクズではなかったことです。

この世には生ごみのようなクズ亭主が存在します。
なお、生ごみっぷりは、社会的地位の高低及び、人当たりの良さとは関係ありません。
地位が高かったり、支援者が多かったり、知名度が高かったりする男のなかにも、生ごみ屑亭主は存在します。

例えば、「子どもが生まれ、妻が母になったから」との理由で浮気三昧に走った挙句、妻に「わたしが悪うございました」と世間に向けて謝罪させる生ごみとか。

例えば、医師クラスタから流れてきた話題。
入院が必要なほど奥さんの具合が悪いのに、「家のことはどうするんだー。俺の世話は誰がするんだー」と駄々をこねて、断固として入院を許さず、結果、奥さんの容態を悪化させた生ごみが。

他にも、こんなエントリが流れてきました。
外部リンク:【開腹手術終わったばかりの奥さんに旦那さんが「家事が回らない、家が汚い。明日には退院できないか」】
(まとめサイト記載なので創作かもしれませんが、似た実話を見かけますので一例としてリンクしました)

こういう生ごみであれば、また、夫の浮気に謝罪する奴隷妻を「妻の鑑!」と賞賛してるハエ男(生ごみにはハエがつきものです)(賞賛者には女性もいるかと思いますが、話題の展開上、男に絞りました。女性を免罪してるのではありません。ハエ男同様、ハエ女だと思ってます。)であれば、お静さんのような妻の従順さを、「俺に尽くしくれる嫁をもらったぜ~、イエーイ!」とのみ受け取り、とことん図に乗って、使い捨てのできる奴隷のように扱ったことでしょう。「尽くしてもらうのが当たり前」だから。

けれど、お静さんの夫となった登さんは生ごみではありませんでした。
「夫に死ねと言われれば、その場で死んでみせる」覚悟を秘めた従順な妻の本質を、彼は、「強さ」であると正しく理解したのです。
そして、「嫁にはかなわない」という思いを抱き、自分は妻に負けていると悟りました。
負けている、何に?おそらくは、人としての器で。

それでも、登さんに資産があり、本人もばりばり稼いでいる間は、夫婦仲は順調でした。
夫は政治に、金儲けに、精力的に動き回り、妻は、そんな夫を内助で支え、と、絵に描いたような夫唱婦随の夫婦像でありました。

しかし、登さんを取り巻く状況は徐々に悪化します。
政治活動にのめり込み、先祖代々の資産は目減りし、世界不況のあおりをくらって、得意の株での稼ぎも思うようにならなくなりました。

人として、妻にはかなわないと引け目を抱きつつも、今までは、家長として名家を支えている実績と自信が、妻への劣等感を打ち消していました。
それらを失った結果、彼はどうしたか。
逃げました。
凋落しつつある名家という現実から逃げました。
妻からも逃げました。
失踪したのではなく、共住みを続けながら、没落する我が家からも、妻と向き合うことからも逃避したのです。

現実逃避の果てに、彼は若い妾を作り、家に入れました。
お静さんは、「夫に死ねと言われれば、その場で死んでみせる」覚悟を持った妻であったのに、「死ね」と命じることもせず、離縁もせず、ただ、妻から逃げたまま、妻も暮らす家に妾を入れました。

妾は厚かましく強欲で、正妻であるお静さんをいびりぬきます。
お静さんはじっと耐え、一方、登さんは、妾が妻をいびる現実からも目をそらし続けました。

ついには、夫婦の間に生まれた長男が怒り、母のお静さんを伴って、妻子ともども実家を出て暮らすことになりました。

「夫に死ねと言われれば、その場で死んでみせる」ほどに、夫に尽くすことを教えられ、その通りに生きてきたお静さんでしたが、晩年は夫の傍ではなく、長男夫婦と孫たちと共に静かに穏やかに暮らし、夫ではなく、子どもと孫に見守られて鬼籍へと入りました。

いかがでしたでしょうか、「究極の大和撫子妻」が辿った人生は?

お静さん本人は彼女の信念にふさわしい一生を送ったと思うので、幸不幸を断定はいたしません。

わたしが思うのは、「大和撫子妻」をもてはやすオトコは、そういう妻と連れ添う覚悟があるのか?という疑問です。

おそらく覚悟などないのでしょう。
別エントリで題材にした「一夫多妻に伴う責任もトラブルも想像せず、ウハウハ状態を夢見てる男子学生」と同様に、「俺に従順で、常に傅いて尽くしてくれる嫁さんサイコー」程度の気持ちなのでしょう。
自分が、その「大和撫子妻」に値する価値がなくとも。
その未成熟な性根が醜悪で、たいへん気色悪いです。

関連エントリ:
【モンテーニュ「エセー」第31章】


「勇者のみよく美女に値す」との詩があります。
「大和撫子妻」が仮に現存するとして、それに値するオノコはいるでしょうか?

番外編.

「磯良(いそら)の夫と倫(とも)の夫がマシに見える日が来るとは思わなんだ」

磯良は「吉備津の釜」(上田秋成著)の、倫は「女坂」(円地文子著)の女主人公です。
記憶頼りで説明しますと、前者は、放蕩者の夫に尽くした挙句、「浮気相手とは別れる」との夫の言葉を信じて、手切れ金を用立てたら、金を持ってトンズラされ、悲嘆のあまりに命を落としてしまいました。死んでからは幽霊となって、夫を憑り殺しています。
後者は、明治時代の旧家の嫁で、男尊女卑も著しい夫の元で、妾の斡旋から家政のきりもりを一手に引き受け、忍従の一生を送りました。幽霊にはなりませんでしたが、いまわの際に、「葬式は無用。自分の骨は海に捨ててくれ」と、怨みの言を残しました。

どっちもひどい夫です。
ひどい夫なんだけど、本文中で触れた、生ごみとハエ男に比べるとマシな気がします。

まず、磯良の夫は磯良の幽霊に憑り殺されています。
彼は、幽霊となって恨みを抱く妻を認識したのです。

生ごみとハエ男であれば、たとえ自分がこき使い、踏みにじって死んだ妻が幽霊となっても、気が付かないと思います。
だって、生ごみとハエ男にとっては「妻が夫のために尽くして尽くして尽くしぬいて死ぬ」のは当たり前のことなのですから。

磯良の夫は、幽霊となって恨みを抱く妻を認識した分、マシに思えます。

次に倫の夫。
彼は独裁者さながらに家中に君臨し、放蕩を尽くし、妻に辛酸を舐めさせた夫ですが、いまわの際の倫の恨みを正しく恨みとして理解しました。
「葬式は無用。自分の骨は海に捨ててくれ」との遺言を聞き入れることこそしませんでしたが、妻が死の間際に放った万斛の恨みによって、「自我にひびがはいるほどの衝撃」を受けました。

生ごみとハエ男であれば、自分が足下に踏みつけにしてきた妻が死の間際に怨み言を言い残しても、なんら感情を揺さぶられることはないと思います。
だって、生ごみとハエ男にとっては「夫の自分が妻から尽くされて尽くされて尽くされて生活する」のは当たり前のことなのですから。

倫の夫は、妻の万斛の恨みを恨みとして正しく理解し、自我にひびが入るほどに衝撃を受けた分、マシに思えます。

まさか、磯良の夫と倫の夫がマシに見える日が来るとは思わなんだよ。


澤地久枝「完本 昭和史の女」

「究極」の大和撫子妻を題材にしたからには、「至高」の大和撫子妻も採りあげようかなと思いましたが、一応創作中の人物であるお静さんと違って、後者は実在、それも近過去の人物なので、遠慮することにしました。

少しだけ触れると、「至高」であるならば、「夫が死ねと命じる前に死んでみせる妻」だろうなと考えました。
その方はI上C代子さん。
↑彼女については、澤地久枝さんの「昭和史の女」にて、一章費やされています。興味のある方はご一読下さい。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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