2016年04月07日 (木) | Edit |
その1. あるデフォルト

創作における帝政ローマ三人組の性格設定は、

オクタウィアヌス 腹黒・狡猾・冷静
アグリッパ 善良・忠犬アグ公
マエケナス 色物

上記のパターンがデフォルトとして定着しつつある、もしくは定着しているように思えます。

実例。
朝香祥・原作、あやめぐむ・作画「Idus Martiae」
さかもと未明「マンガ ローマ帝国の歴史」(2)
DVD「ローマン・エンパイア」(これのオクタビは「へたれ」ですが)
HBOドラマ「ROME」

オクタビが腹黒、狡猾、冷静であるのは史料からうかがえます。
マエケナスが、ゲイであるとか、オネエ系(「ローマン・エンパイア」)だったか否かはともかく、ちょっと享楽的なとこもある文芸保護者であるのは当時の史料からもうかがえます。

けれどアグリッパは・・・。
人柄をうかがわせる史料はさほどありません。
オクタウィアヌスに終生忠実であったのは間違いないのですが。
もしかすると、オクタビなみに腹黒、冷徹な人物だったかもしれないのに。

キャラクターのバランスを考えれば、腹黒、色物は各一人で十分だから、必然的にアグが善人になっちゃうんだろうな。

その2. リウィアとオクタウィア

小説やドラマの世界で、リウィアが「冷たい」、「厳しい」、「誇り高い」と、やや否定的な印象の女性として設定されてしまうのは、オクタウィアの存在が大きいのではないと考えます。

史実では、リウィアもオクタウィアも、アウグストゥスの国策に沿って「ローマ帝国を支える『家庭』を守る貞淑な妻」の役割を果たしています。
だから、似たような「良妻賢母」タイプであった可能性が高いにも関わらず。

創作に際しては、「同じキャラはいらない」し、「対照的な人物を配する」ことで物語に深みを作り出す効果があるからでしょう。
だから、「心やさしきオクタウィア」に対して、「冷たく近寄りがたいリウィア」像になってしまうのでしょう。

オクタウィアは誰が書いても、心やさしき女性ですものねえ・・・。

例えば、ななみんは、「優しいが自分の娘たちのことで精いっぱいで、姪にまで関心を寄せる余裕のないオクタウィア」と、オクタウィアのことは「優しい」と表記する一方で、リウィアのことは、「美しく誇り高い」、「ユリアに対する態度には、以前の冷淡に憎しみさえ加わった」、「取り澄ました美貌が冷たささえ感じさせる」と、近寄りがたい女性のように記述しておられます。(会ったのか、貴女はリウィアに会ったことがあるのかああああ)

「この私、クラウディウス」でさえも、恐るべきリウィアに対して、オクタウィアは優しく情のある女性として描かれています。(いやむしろ、リウィアを悪役に設定したこの小説であればこそ、よりいっそう「心やさしきオクタウィア」を強調する必要があるのでしょう)。

Colleen McCullough「Antony and Cleopatra」(「アントニーとクレオパトラ」においても、二人の違いが顕著です。
子供好きで母性的で、男性に愛され庇護されることに満足しているオクタウィアと、子供嫌いで母性的でなく、夫とともに権力の頂点を目指すことに喜びと充足を感じるリウィア。

タキトゥス以来、継母兼毒害者の汚名を浴び、現代作家からも、冷たい女として描写され、リウィアさまって、とことん巡り合わせが悪い・・・。
パトラもので悪役にされてしまう夫と、こんな点で似なくても。

その3. カルプルニア

厳密にはユリウス・クラウディウス・ファミリーの一員ではないけれど、ユリウス・カエサル最後のの妻、カルプルニアさまのこと。

本項を書くにあたって、クレオパトラものへの反感、つまりフィクション(虚構)への反感があるので、蜃気楼を相手にしているような虚しい罵倒ですが、書きたいから書きます。

わたしは、クレオパトラ小説・ドラマはあんまり好きではありません。
とうより、好きになれません。

クレオパトラの敵役として、オクタウィアヌスが卑小、卑屈、卑怯な矮小化された人物にされてしまうから(※)。
それだけでなく、ローマ側の女性がまるで値打ちのない女のように人物設定されるからです。


(※)しかし、気のせいか、ななみんの著作「ローマ人の物語」以降に出版されたクレオパトラものでは、オクタウィアヌスの描き方は改善されているように思えます。


なんですが、まあ、その件は脇に置いて。

クレオパトラものは、だいたい「カエサルとクレオパトラはラブラブ」路線です。
クレオパトラに会ったその日から、カエサルは他の女に目もくれず。
もちろん、妻カルプルニアともベッドを共にせず、という設定にしています(と、思います。緻密にチェックしていないので思い込みなら指摘を下さい)

なので、クレオパトラ作家の願望は、「クレオパトラに会った日から、カエサルはクレオパトラ以外の女とは関係を持っていない。もちろん、ローマに戻っても、妻カルプルニアとベッドを共にするこことはなかった。なぜならば、そんなことをしたら、愛するクレオパトラへの裏切りだからである!!クレオパトラを愛するカエサルがカルプルニアと寝るなんてことはあり得ない!!!」であろうと思います。

ちょうど妻ある男と不倫中の女が、男の「妻とは寝ていない」との言い分を信じようとするように。

作家にとって都合のいいことに、カルプルニアはカエサルとの間に子供を儲けなかったので、「妻とは寝ていない」との決め付けを大いに援護してくれます。

けれど、カエサルの遺言書には、クレオパトラ作家のそんな幻想をぶちこわしてくれる一文があります。

万一生まれた時の自分の息子のための後見人に、デキムス・ブルトゥスに至っては、次位の相続人の中に指名していた」
(「ローマ皇帝伝」カエサル-83)(赤文字強調は管理人による)



「万一生まれた時の自分の息子」!
つまり、カエサルはカルプルニアと夫婦関係があったのです。

露骨に表現すれば、カエサルはカルプルニアを抱いていたんです。
↑この表現、クレオパトラ作家には一番ダメージがあると思います。
ちょうど不倫中の女が、男と妻の間に夫婦関係があることを知って衝撃を受けるように。

付け加えると、この一文はローマ人カエサルにとって重要なのは、ローマ人の妻が産む息子であった証左です。

クレオパトラその人も、カエサリオンも、ローマ人カエサルにとっては、ローマ社会の外の存在にすぎなかったのだと、わたしは思います(遺言状執筆時点では)。

さあ、遺言状のこの文面をどう受け止めますか?
これでもカルプルニアがないがしろにされていたと主張するつもりですか?と、クレオパトラ作家に詰問したところで、なんら反応があるわけでなし、我ながらバカバカしくムキになっていますが、カルプルニアの為に主張せずにいられませんでした。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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コメント
この記事へのコメント
微妙な例
その1に関して:内水さんの『アグリッパ』は、タラニスが襲名したアグリッパに注目するならば、たぶんまっすぐな性格の路線でいきそうなので、ばっちり腹黒オクタでこの図式にあてはまっているのですよね。あの世界での色物マエケナスが見たかっ・・・いえ過去形はよしましょう、見たいものです。
 アグの性質として間違いのなさそうなことは、勤勉さでしょう。あとの二人は、だらだらしているのもけっこう様になりますが、アグは、たとえ出世していなくても働き者としてしか想像できません。ぐーたら宣言しても結局働いた少佐並に。
2016/04/16(Sat) 14:11 | URL  | レーヌス #t1rTeCTA[ 編集]
Re: 微妙な例
> その1に関して:内水さんの『アグリッパ』は、タラニスが襲名したアグリッパに注目するならば、たぶんまっすぐな性格の路線でいきそうなので、ばっちり腹黒オクタでこの図式にあてはまっているのですよね。あの世界での色物マエケナスが見たかっ・・・いえ過去形はよしましょう、見たいものです。

変人キャラ、変態キャラも得意な作家さんですから、かなりはっちゃけたマエケナスになったかも、ではなく、わたしも希望を込めて、「なるかも」と語りましょう。

リウィアさまも見たいものです。なんとなく、悪女キャラになりそうな予感もするけれど。


>  アグの性質として間違いのなさそうなことは、勤勉さでしょう。あとの二人は、だらだらしているのもけっこう様になりますが、アグは、たとえ出世していなくても働き者としてしか想像できません。ぐーたら宣言しても結局働いた少佐並に。

「ローマ人の物語」で、「カエサルに見いだされ、オクタウィアヌスの側近に配された時から、アグリッパの人生は全てが喜び、全てが感謝であった」(うろおぼえのまま記憶引用)との一文を読んだ時、犬のシーザーのように「おれはやるぜ、おれはやるぜ」と、オクタウィアヌスの期待と要請にこたえて働きまくるアグリッパの姿が浮かびました。

早死の原因はやはり過労死か・・・!?
2016/04/16(Sat) 21:18 | URL  | サラ #ndrEhoxc[ 編集]
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