2016年06月06日 (月) | Edit |

↑もう古本でしか出回ってないのですが、とりあえず5巻にリンク。

女の子に生まれたそのときから、千香子の闘いが始まった。
(「プライド 千香子の闘い」1巻裏表紙から引用)



譬えるならば、エリザベス一世が、父、ヘンリー八世に闘いを挑む物語。

「父は王位を継ぐ『息子』を望んでいた。
母はわたしが『娘』であった為処刑された。
女であることはそれほどに否定されねばならないのか!?
No!
女の王だから統治できないとは言わせない。
わたしは、己の生き方で父に問おう。
あなたが否定した『女の王』が、イングランドを見事に統治するさまを地獄から見ているがいい!」



舞台はれっきとした現代です(1巻奥付に1989年と記載。物語もおそらく同年代)。

しかしながら、第1話は、アン・ブーリンとヘンリー八世、そしてエリザベス一世の誕生を巡る悲劇を彷彿とさせます。

ヘンリー八世、もとい、辻輝樹、45歳。
「大臣すら足を向けて寝られない」と言われるほどの政界の大物にのし上がった彼にも、ただ一つ得られないものがあった。
彼には全てを受け継いでくれる息子がいなかった。妻は一人の子どもも産まなかった。
そんな憂愁を抱いていた頃、愛人の芸者、比呂菊(本名・宏子)から子どもができたことを告げられる。
認知も求めない比呂菊の望みは、出産を許して欲しいとのことだけだったが、辻輝樹は妻を奸計にかけて離縁し、比呂菊を正妻に迎える。
「男を産め!立派な跡取りとなる男を産め!絶対に男だ!!俺の跡取りは嫡出子でなければならない!」

けれど月満ちて産まれたのは女の子であった。
失望した輝樹は見舞いせず、名付けすらしない。
母となった宏子によって、娘は「千香子」と命名された。

4年後、宏子の懐妊能力を見限った輝樹は愛人を妊娠させ、宏子に離婚をせまる。
土下座して離婚を懇願する輝樹の姿は、金(慰謝料5億円)にも、脅し(殺してやるぞ!)にも屈しなかった宏子の何かを打ち砕いた。

「総理大臣だって逆らえない男が、元芸者の女一人に頭を下げるっていうの!?
あなたにとって息子ってなに?
千香子はすごい女になるわ。あなたが驚くような。
跡継ぎがなんだっていうのよ!」

宏子は自殺した。浴室で手首を切って。

半年後、父が再婚した相手は、すでに臨月のお腹を抱えていた。

以上、第1話のあらすじです。
36枚の頁数の中に、ぎゅうぎゅうに情報がつまってます。

率直に言って、第1話は、端折りすぎてわからん箇所もあります。
例えば、輝樹が再度愛人を作り、妊娠させた理由。
あらすじでは「宏子の懐妊能力を見限った」と書きましたが、作中では説明がないんだよなあ。
まあ、ヘンリー八世だって、エリザベス出生後、アン・ブーリンが息子を産むのを一応3年ほど待ったんだから、辻輝樹も待ったんでしょう。そして、宏子の腹に期待しなくなったのでしょう。

もひとつわからないのが、宏子の自殺の動機。
身を引いたんのではないことは確かです。
怒りか、怒りなのか!?
男、息子、男、息子、と求め続けた夫への。
いわゆる「あてつけ」自殺なのかなあ。
この「自殺」がもたらしたものが、後々、千香子の「闘い」のモチベーションなるのですが。

このように、勢い重視で強引な展開ではありますが、
「女がだからといって、蔑まれて生きることはない」
「女だからといって、人生の可能性を狭めることはない」
「女だって人間だ。誇り高く生きよ!」
と、テーマはぶれずに物語は繰り広げられています。

わずか5巻とは思えないほど密度の濃い物語です。
千香子の誕生から、中学高校と丹念に描かれ、それでいて駆け足感もなく。

辻輝樹は命名こそほったらかしましたが、一応、良い父親です。
子どもに衣食住の不安を与えず、水準以上の衣食住及び教育を与えているのですから。
肉体的な暴力をふるったり、娘に性的な言動をもちかけるクズ父ではないのですが、なんていうか、「長男重視の絶対君主家父長オヤジ」です。
毎日の暮らしのあらゆる言動が、千香子(女)の自尊心を踏みにじるものでした。

当初は、そんな父の態度にとまどっていた千香子ですが、優秀な成績を修めても、息子が娘に劣ることを認めたくない父から、「真也(弟)との差を見せつけるために、汚い手を使ったんだろう、カンニングでもしたんだろう」と決めつけられ、さらには、勉強の時間を奪うように、「女だから家事を一通り身に着けておけ」と、家事の手伝いを命令され、毎日の生活の中で、父の言動に疑問を持ち始めます。

「男だったら、もしわたしが男だったら、もしかして母さんが死ぬこともなかったの!?」
「父さんのバカな考え方が、母さんを殺したんだわ!」

ある出来事をきっかけに、千香子がそう悟った時、あらたに、父との闘いの第二ラウンドの幕があがります。

この後、いろいろとあるんですが、めんどいので省略。
ジェットコースターのような上がり下がりの果てに、ニュースキャスターとなった千香子が、父、辻輝樹が関わる贈収賄をスクープする展開になり、後日談を経てフィナーレとなりました。

1990年前後に発表されたとは思えんくらい、「現代」にも通じるお話です。
電子書籍化もされてないのが残念です。

では、「プライド 千香子の闘い」の好きなセリフをいくつか。
引用にあたって、ひらがなを適宜漢字に直しています。

清原
「千香子ちゃん、たしかに僕はあの人(辻輝樹)の考え方は好きじゃない。
だけど、ある一面ではすごくあの人に憧れたりしている。
裸一貫からあれだけの財産を築き上げ、全てを強引に運んでしまう力強さ。
男のサクセスを絵に描いたような人なんだ。」
千香子
そんな古臭い憧れは、ぶち壊して差し上げます」「いつか・・・
(同書 1巻)



ああ、引用のセリフだけでは、この場面の千香子のかっこよさが伝わらない。
セリフそのものもかっこいいのですが、力むでもなく、微笑むでもなく、穏やかに、淡々と口にしてるのですよ。

清原謙二郎さんは、弟の家庭教師であり、千香子の理解者です。
後に、千香子のサポートをする為に、敵のふところ、すなわち、辻輝樹の求めに応じ彼の秘書になります。
東大でロケット工学を学んでいました。
辻輝樹をして「あの男は使える!」と感嘆させしめた、頭の良さ、口の堅さ、誠実さを有する人物です。

清原
「工藤さん、貴女はもしや自分が男性であったらいいなと思っているのではありませんか?」
工藤
「そうね。仕事の時などはそう思います。同じことを言っても、男性が言えばもっともらしく聞こえますもの」
清原
「それでは千香子さんの気持ちなど一生わからないでしょうね」
(中略)
貴女はエリートかもしれないが、男に都合のいいだけの女性だ。
なぜなら、女でありながら女を見下しているからだ!

(同書 3巻)



清原さんもかっこいい!
そうだ、そうだ、まったくだ。
「女でありながら女を見下している女は、男に都合がいいだけの女性である」、あの人や、この人の名がうかびますわ~。SとかHとかMとかIとか、また別のMとか。

工藤恵利華。
大日本テレビの看板ニュースキャスター。
登場当初は、千香子と、「好敵手」と書いて「ライバル」、あるいは、「強敵」と書いて「とも」と読む仲になるかと思ったら、そんなことはなかったぜ。
セリフでおわかりの通り、実にわかり易い「名誉男性」です。

しかしながら、清原さんに一刀両断された工藤さんとはいえ、一応、的を射たことを言ってます。
では、リピート。

「仕事の時などはそう思います。同じことを言っても、男性が言えばもっともらしく聞こえますもの」

男の方が優秀だから、男性であったらいいなと思ってるわけじゃないんですね、彼女は。
「同じことを言っても、男性が言えばもっともらしく聞こえる」から。
「女でありながら女を見下している」だけでなく、「名誉男性」であるくせに「男も見下している」んだよなあ、この人。

とはいえ、「男性が言えばもっともらしく聞こえる」のだと、「現実」をよくわかってらっしゃいます。
しかしながら、工藤恵利華はそのことを「不当」とも「理不尽」とも考えず、変えていこうともせず、そこに乗っかって認められる手段を選びました。
ここが、千香子との生き方の違いです。

清原
「彼女を好きかと聞いたね。ああ多分、僕はチカちゃんを好きなんだと思うよ」
「だが、それ以前に僕は、彼女の生きざまに僕の人生を賭けているんだ」
(中略)
工藤
「(なんなのよ一体・・・。男の癖に小娘に人生を賭けるですって!?みっともないと思わないのかしら)」
(同書 5巻)(工藤のセリフはモノローグです)



千香子
「だって先生(清原)は大学に残ってロケットを作りたかったのでしょう?そんな大切な夢を父が脅したから手離したのなら・・・」
「もう父の力もそこまでは及ばないと思います。だから・・・」
清原
「ロケットより面白いものを知った。ただそれだけのことだ」
千香子
「ロケットより面白い?」
清原
辻千香子の生きざまだよ
(同書 5巻より)



前者は、収賄をスクープされ、収拾に追われる辻家内部での清原と工藤恵利華(この当時は、辻輝樹の愛人になってた)の会話、後者は、父の収賄をスクープした後、暴走した辻輝樹の部下がさしむけた暴漢から千香子をかばって入院中の会話です。

一人の女が、女の誇りを賭けた生きざまを、自分の人生を賭ける値打ちあるものだと認めた男がここにいた。

大文字強調した一文そのものが、「男」に認めてもらうことが「名誉」であるとの思考を反映しているのは理解しています。
でもね、愛しい女への恋の言葉はささやかれても、女をプライドを有する一人の人間と認識したうえでの愛のセリフのなんと少ないことか。
工藤恵利華ではないけれど、「女を一人の人間と認めるなど、みっともない」との思考で満ちている世間ですから。

このセリフは、男から女への愛のセリフとしても、わたしのランキングではベスト3に入ります。

◆万里村奈加さんは、コミックスの発行年を見るに(Amazon参照)、1980年代から90年代にかけて作品を発表されています。

ブックオフで読んだ、と公言するのは、作者さんに失礼ですが、古い本なので勘弁していただくとして、わたしが子どもの頃は、まだ、ブックオフ系の古本屋でそこそこ見かけ、読む機会に恵まれました。

「プライド」の他、「悪女の日曜日」「白の条件」「ブラインドデート」「クリスタル・キャンデー」「黒のミラージュ」「無邪気な娼婦たち」その他短編集多数で、どれもテーマは直球勝負の「女の生き方」。
忍従と服従の女の美徳ではなく、自分の意志を持ち、自分の考えを持ち、己の力で生きていけ!と女の背中を後押ししてくれる内容でした。

そんな中で忘れられない一作があります。
忘れられないと言いつつ、断片的にしか覚えてないのですが・・・。

タイトルは「女の子の階段」。
○ 小6のクラスで女主人公(A子)が男子と腕相撲をとって勝った。
○ A子は誇らしく思ったが、負けた男子が陰で「女の子相手だから価値を譲ってやったんだよ」と男子仲間に喋っているのを聞いてしまう。
○ それを理不尽に思ったA子は自分の実力を認めさせたいと、勉強も運動もより一層がんばる。
○ A子は、別の男子(B男)とまた腕相撲を取るが、今度は負けてしまう。
負けたのはA子なのに、「女の子相手に本気だすなよー」とB男がからかわれる。
○ 後になって、B男から、A子が本気で向かってくるのだから、自分も本気を出した。
以前負けた男子もきっと本気であったはずだ。でも、女の子に負けたから、本気でなかったと口にしたんだろう。だけでそれは間違っていると思ったと聞かされる。

こんな場面、こんなやりとりのある短編でした。
断片的にしか覚えてないので、起承転結のある形でお伝えできません。

ただ、これを読んだ時、この世には、こういうお話を描いてくれる大人がいるんだ!と感激したことを覚えています(だったら、コミックスごと買っときゃよかったんだ、自分)。

日常生活の中のありふれた風景。
悪意なく踏みにじられ、摘み取られる女子の自尊心。
そんな風景を汲みとって、きちんと自尊心を肯定してくれる大人がこの世にはいるのだと。

電書化されていないことが残念です(Kindle他、Renta!と、まんが王国も調べました)。

万里村奈加さんの作品については、下記エントリでも少し触れています。

関連エントリ:【産むことに執着しないヒロイン】

◆おまけ。

海槌剛三。
政治家。スケバン刑事こと麻宮サキの終生のライバルである海槌麗巳の父親。なお、長女である麗巳の下に娘が二人おり、三人姉妹の父です。
「スケバン刑事」の連載年からして、海槌剛三が登場する「三姉妹」編は、1975年から1977年頃がと思います。

さて、「プライド 千香子の闘い」。
連載開始が1989年、この頃に主人公、千香子24歳と仮定すると、父の輝樹は70歳。
逆算すると生年は1919年となり大正8年です。
作中での「大正生まれ」「戦争に行った」とのセリフともつじつまがあいます。

てことは、千香子は1964年(昭和39年)頃の生まれになります。
その頃の世間の男女観を察するに、辻輝樹が「息子」にこだわっていたのも無理ないかもしれません。

だから余計に、海槌剛三さんてすごいなと思うのですよ(笑)。
辻輝樹とほぼ同年代であるのに、そして娘ばかり三人だというのに、失望もせず、娘三人をちゃんと一人前の人間と認めている。だってG計画を、娘たちともども立案、遂行していますよ。
それに、長女の海槌麗巳を自分の「後継者」と見なしている。婿をとらせて、その婿を跡取りにではなく。
すごいぞ、海槌剛三(笑)。

いやまあ、わかっちゃいますけどね、「スケバン刑事」が少女まんがであるから、主人公が女となり、ライバルも女となったから、娘ばかり三人の父なのに不満を持たない、娘たちに対しては女性差別しない父親キャラになっちゃったのだと・・・。

しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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