2016年11月26日 (土) | Edit |

犬養道子「幸福のリアリズム」

ミチコちゃんのお父さんは学生野球が大好きです。
贔屓の学校の野球部にお菓子を差し入れに行きました。
帰宅したお父さんは感心した口調でミチコちゃんに語りました。
「キャプテンのA君は立派だねえ。
お菓子を受け取って、『お心遣いありがとうございます。部員みんなでいただきます。でも、僕はお菓子を食べると最良のコンディションを保てなくなるんです。大好きなお菓子ですが、申し訳ありませんが、僕はお心遣いのみを有難く受け取らせていただきます』と言ったんだよ。
好きなお菓子なのに、野球の為のベストの体調維持の為に我慢してるんだよ。ミチコ、おまえは年がら年中つまみ食いしてるじゃないか」
最後の一言は余計だと思ったものの、A君のエピソードは幼いミチコちゃんの心に残り、後々著述を生業する者になったミチコちゃんは、ここから、ひとつの「幸福のリアリズム」を見出しました。

即ち、「目標がある時、どれほど自分にとって好ましく快いモノであっても、目標の妨げとなるモノは断固として退ける必要がある」。



以上、犬養道子さんの著書「幸福のリアリズム」より紹介しました。
手元に本がないもので、思い出しつつ、筋が通るように適宜補足改変しています。書名がわかってるんだからどっかで入手して読み直せってなもんですが、ごめんなさい。

ところで、新約聖書に「不正な家令(管理人)」(ルカによる福音書16章1-13節)のたとえ話があります。説明はめんどいので、各自で読むか検索して下さい。
ひらたく言えば、「狡賢い家令が不正を行ったのに、その悪知恵を誉められるお話」です。
このたとえ話が不正を肯定している意味を聖書研究家でもある犬養道子さんは、下記のように指摘しておられました。

(1) 解雇の危機において、素早く適切に動いた点(行動が不正であることは、二の次。とにかく、危急存亡のときにおいて素早く適切な行動を判断し即実行した。)
(2) 家令の行為が狡く不正であるゆえに、聞いた人々の頭に残り、「なぜだろう?」と、たとえ話の意味を深く考える。


であるならば、冒頭のエピソードも、爽やかな学生野球のキャプテンではなく、「犯罪者」を主役にしたものであれば、より深く人々の頭に残るはず。

では、
「死刑判決を覆した者」
「易きに流れて死刑となった者」
「無期懲役を勝ち取った者」
それぞれについて語りましょう。

以下、全て実在した犯罪者ですが罪状は記載しません。イニシャルは実名と無関係です。
法律用語については厳密に用いていません。考え違いがあればご勘弁を。
参考図書は末尾に記載します。

その1.「死刑判決を覆した者B」
一審、死刑。二審、無期懲役。上告後、取り下げて服役。

一審で死刑判決を下されたBは「死にたくない!」と控訴し、死にもの狂いで法律を勉強し、死刑を回避するあらゆる理由を絞り出し、文書を練り、自身の減刑の為の書類(上申書?)を書きあげました。

司法機関や一部の支援者にとっては、「死刑を受け入れる」とは、「被害者に申し訳ありません。」とおとなしく、聖人と化して従容と死刑に臨むことなのでしょう。
その点から見れば、Bは、理想的な犯罪者ではありません。
しかし、自分が死刑になるかもしれない現実を認めたからこそ、「死にたくない!なんとしても無期を勝ち取ってやる!!」と決意しました。

二審にて、自分が述べた「死刑を回避する理由」はことごとく却下されたものの、判決は「無期懲役」。
減刑の為に死に物狂いで努力を重ねたBは、みごと死刑判決を覆しました。

仮釈放後、Bは刑務所内での体験記を出版しています。

その2.「易きに流れて死刑となった者C」
一審、死刑。二審、死刑。最高裁、上告棄却、死刑確定、執行済み。

CはBと同じ刑務所にいました。
Bは、死刑判決を受けて係争中のCに同類の親近感を抱き、また、Cが年下であることから、弟に対する兄のような気持ちで、自分の実績を参考に、死刑判決を覆す為のアドバイスをしました。

内部(Bの助言)だけでなく、外部でも、Cの生い立ちが不遇であったこと、その他の諸状況により、「Cを救う会」が結成されていました。

しかしながら本項の最初に記載した通り、Cの死刑判決は覆りませんでした。

以下、この件についてのBの意見を記述します。これが正鵠を射ているかはわたしには判断できません。あくまでもBの見解としてお読みください。

Bの見解は、「Cは減刑を勝ち取るための努力が足りなかった」。
難しくやっかいな、減刑の為の法律の勉強や、死刑を回避する理由を考える事よりも、支援団体との交流のラクさに流されてしまった、と見ています。

Cの死刑が執行され、さらに年月が流れ、仮釈放となり市井に暮らすBの元に、C支援団体の一人から手紙が届きます。

「Cも人々に支えられ、最後には人の思いやりを知って安らかに亡くなったことと思います」(←まるで引用のようなかっこ付き文面ですが、わたしの創作です。Cの刑死を憤るのではなく、安らかな気持ちで処刑されたであろう調の文面であったと記憶しています。)

Bは怒りました。
ふざけんな!死刑になるより、生きてる方がいいに決まってるだろ!と。

とはいえ、Cが従容と死刑を受け入れていたのであれば、他人が口をだすことではありません。
しかし、別の本で、わたしはCの後日譚を知りました。

その本では、伝聞ですが、死刑執行を言い渡された時のCの様子が述べられています。
Cは泣きわめき手におえない状態になったので、ガス銃が使用され、意識朦朧としたところを、刑務官が支えて刑場に連れて行った、と。(※1)

(※1)同著書によりますと、Cは刑務所内で請願作業に励み、報奨金を家族に仕送りしていたそうです。だから、支援団体との交流だけに熱心であったのではないと言えましょう。
ちなみこちらの著者もCに、弟に対する兄のような情愛を抱き、減刑の為のアドバイスをしています。

C、あんたも死刑は怖かったんじゃないの・・・。死ぬのは嫌だったんじゃないの・・・。
だったら、Bの言うとおり、死にもの狂いで減刑の為に力を尽くすべきだったのに。

支援団体の人間より、獄中の仲間の助言の方に耳を傾けるべきだったのでは?
言っちゃあなんですが、支援団体なんてしょせん塀の外、死刑にもならない安全地帯にいるんですから。

Cの顛末から思うこと。

ひとつ、人は易きに流れる。

死刑ですよ、死刑。
刑場に引きずり出され、首に縄をかけられて、床がガタンと外れたらおしまい。
死にます。

目の前に「死刑」判決が掲げられているのに、極限に追い込まれているのに、なお、難しい裁判闘争ではなく、ラクな方に流れるとは。

死刑判決を争っている人間でさえこうなのですから、命の心配のない一般人であれば、どれだけ安直に易きに流れてしまうことか。

ひとつ、サポーターの怖さ。

こういっちゃ失礼ですが、そして、Bの言い分に全面依拠ですが、サポーターって、そのサポート内容によっては怖い。

具体的なやりとり知らないので、「交流」自体はどうこう言えないんですが、Bに届いた手紙(※2)を読む限りでは、罪を悔いて安らかな心で執行されてくれる、「理想的な死刑確定囚」と、それを支援しているボク・ワタシってステキ!と自己陶酔しているように見えます。

(※2)手紙の文面は覚えていませんがCの刑死を憤るのではなく、自分たちとの交流を経て安らかに処刑された事に満足している風の文面であった記憶しています。

自分のすべきこと、大事なことをきちんと見据えることの大切さと、どれほどに苦しく不快であっても、目標の為に必要なものであれば受け入れ、逆に目標の妨げになるものを切り捨てる重要さを痛切に感じます。
さらに、「現実」を見つめることの大事さも。

その3.「無期懲役を勝ち取った者D」
一審、無期懲役。確定。

一審の裁判中、死刑判決が下るのが怖かったDは、刑務所内の先輩(Bではない)のアドバイスを仰ぎ、あらゆる努力をしました。

被害者遺族および生きている被害者にわび状を送り続ける。
毎日読経を欠かさず、被害者の冥福を祈る。
刑務所内の待遇に不平不満を言わず、規則に則って生活する。
出廷時、被害者遺族および被害者に土下座する。

極めつけは、「自殺」。
遺族の姿を目の当たりにして、良心の呵責に耐えきれずとの思いをアピールする為に「自殺」も試みました。
自殺したら死んでしまいますが、そこは刑務所内の先輩と事前打ち合わせ済みで、Dのうめき声が聞こえたら先輩が大声を出して即刑務官を呼ぶと手筈が整っていました。

これら、文字通り死にもの狂いの努力の結果、みごと、無期懲役を勝ち取りました。

以上、3人の犯罪者たちの顛末はいかがでしたでしょうか。
BとDのケースは、道徳、社員教育、自己啓発の書に掲載してもいいんじゃないかと思います。

目標を達成する為には、
(1) 自分にとって快く気持ちよいものであっても、目標の妨げとなるものは断ち切らねばならない。
(2) 自分にとって辛く不快なものであっても、目標達成に繋がるものであれば取り組まなければならない。


この大事な二点を痛感させるのにこのうえない題材です。
さらに、Cのように、絞首台の縄が首にかかってても、易きに流れてしまうケースも、反面教師として貴重な実話です。

念のため補足。
本末転倒してならないのは、大事なのは「目標」であること。
目標に繋がらないのに、苦難を引き受けたり、快楽を断ち切ったりする必要はありません。

参考書籍:
K・O「さらばわが友 実録大物死刑囚たち」
合田士郎「そして死刑は執行された」


しかるにリウィアは初代皇帝アウグストゥスにふさわしい、偉大なる貴婦人であった。

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